15.翌朝、デカい犬が来ました
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
翌朝。
離れのリビングには、異様な光景が広がっていた。
豪奢なソファの上で、この国最強の騎士団長ジークフリートが、薄汚れた毛布一枚を被って丸まっているのだ。
昨晩、彼は「リリーが心配だから!」と駄々をこね、本邸に帰ることを頑なに拒否した。
リリアナは追い出すのも面倒になり、「勝手にすれば。ただし寝床はソファね」と、物置にあった古毛布を投げつけたのである。
それでも彼は「リリーの匂いがする……(しない)」と幸せそうに就寝した。
つくづく安上がりな男である。
リリアナが欠伸をしながら起きてくると、玄関の方から控えめな音が聞こえてきた。
トントン。
カリカリ。
何か硬い爪で、ドアを引っ掻いているような音だ。
ルナなら合鍵を持っているはずだし、使用人なら声をかけるはずだ。
(……野良猫かしら。にしては音が重いけど)
リリアナは寝癖のついた頭を掻きながら、玄関へ向かった。
鍵を開け、ドアノブを回す。
ギィィ……。
冷たい朝の空気と共に、視界いっぱいに「白」が飛び込んできた。
壁ではない。
モフモフした毛皮の塊だ。
見上げると、二階の屋根に届きそうなほどの巨体が、そこにあった。
「……クゥ~ン」
昨晩の「森の主」だ。
彼は玄関前でお行儀よくお座りをし、つぶらな瞳(直径三十センチ)でリリアナを見下ろしていた。
朝日を背負い、神々しいまでの存在感を放っている。
「……でか」
リリアナの第一声はそれだった。
森で見た時も大きかったが、家の前で見ると縮尺がおかしい。
圧迫感が尋常ではない。
「どうしたリリー! 敵襲か!?」
リリアナの呟きを聞きつけ、ソファからジークフリートが転がり出てきた。
寝癖だらけの髪で剣を構え、玄関に殺到する。
そして、巨大な白狼と目が合った。
「うわぁぁぁ!? 昨日の魔獣!? なぜここに!?」
ジークフリートは絶叫し、腰を抜かした。
無理もない。
昨日死闘を繰り広げた相手が、新聞配達のように玄関前にいるのだから。
「ま、待て! ここへ来るには王都の結界を通らねばならんはずだぞ! 魔物を焼き尽くす対魔結界を、どうやって素通りしてきたんだ!?」
ジークフリートの喚き声を聞き、リリアナはふと眉を動かした。
(……そういえば、そうね)
この王都には、強力な古代結界が張られている。
強力な魔物であればあるほど、侵入した瞬間に感知され、拒絶されるはずだ。
それを無傷で潜り抜け、ここまで正確に追跡してきた。
さらに、昨日の戦いではリリアナの言葉を理解し、今はこうして「お座り」までしている。
(結界を無視するほどの高位の存在。人語を解する高い知能。そして、この圧倒的な神気……)
リリアナの脳内で、点と点が繋がる。
ただの「森の主」ではない。
これは魔獣などという枠を超えた存在だ。
「……もしかして、アンタ」
リリアナがジト目を向ける。
「伝説の神獣、フェンリル?」
「ワンッ!」
狼は「いかにも」と言わんばかりに胸を張り、尻尾をブンと振った。
その風圧で玄関のマットがめくれ上がり、ジークフリートが吹き飛ばされる。
「フェ、フェンリルだとぉぉぉ!?」
壁に叩きつけられたジークフリートが裏返った声を上げた。
「神話に出てくる『天狼』か!? 国を滅ぼすとされる厄災そのものじゃないか! なぜそんなヤバイのが、リリーに懐いてるんだ!」
「さあ? 呪いを解いてあげたからじゃない?」
リリアナにとっては、相手が野良犬だろうが神獣だろうが関係ない。
重要なのは「モフれるか否か」だ。
彼女はフェンリルの鼻先に手を伸ばした。
「グルルルルゥ……」
ジークフリートには殺気を向けていたフェンリルが、リリアナの手には嬉々として鼻先を押し付ける。
極上の毛並みだ。
触れているだけで指先が温まる。
(……これはいい。冬の暖房器具としては最高品質ね)
リリアナの計算高い瞳が光った。
(それと、この寒い中やってきた犬を、追い返すのはかわいそうだしね)
しかし、問題はこのサイズだ。
「飼ってあげてもいいけど、その大きさじゃ邪魔よ。家に入れないわ」
リリアナが冷たく言い放つと、フェンリルは「シュン……」とわかりやすく耳を垂れた。
「小さくなれるなら置いてあげる。どう?」
フェンリルは首を傾げた。
どうやら戦闘力には長けていても、生活魔法は使えないらしい。
リリアナは溜息をつき、指先に魔力を灯した。
「じっとしてなさい。サイズ調整するから」
空中に素早く漢字を描く。
『縮小』
光の文字がフェンリルの体に吸い込まれる。
シュゥゥゥ……という音と共に、見上げるような巨体が圧縮されていく。
数秒後。
そこには、ゴールデンレトリバーほどの大きさになった白狼がちょこんと座っていた。
「わんっ!」
野太い声で吠える。
サイズは縮んだが、毛並みの良さと神々しさはそのままだ。
「よし、合格。今日からアンタの名前は『ポチ』ね」
「ポチ!? リリー、それはあまりにも……神獣相手にポチとは……!」
ジークフリートが抗議するが、本人は気に入ったのか「ワフッ!」と尻尾を振っている。
ポチはリリアナの許可を得ると、我が物顔で家の中に入り込んだ。
そして一直線にリビングへ向かい、一番暖かい場所――コタツの中へと潜り込んだ。
「あーっ! そこは私の場所だぞ!」
ジークフリートが追いかける。
彼がコタツに足を入れようとした瞬間、中から白い頭がヌッと現れ、
「ガウッ!!」
氷の牙を剥いて威嚇した。
本気の噛みつきである。
「痛っ!? 噛んだ!? 今噛んだぞこいつ!」
「ポチ、いい子ね。不審者は噛んでいいわよ」
「夫だぞ!?」
リリアナはジークフリートを無視し、コタツに入った。
中にはポチという名の最高級生体湯たんぽがいる。
その背中にもたれかかると、極上の温もりが背中から伝わってきた。
「ん~……最高。人をダメにするソファの完成ね」
リリアナが至福の表情で瞼を閉じると、ポチは得意げに鼻を鳴らした。
そこへ、奥からルナがやってくる。
「主様、朝食のご用意が……あら、可愛いワンちゃんですね」
「ワフン(媚び)」
「ポチ、おやつですよ」
「ハッ、ハッ!(歓喜)」
ポチはルナの手から干し肉を受け取り、嬉しそうに咀嚼した。
完全にこの家のヒエラルキーが確定した瞬間だった。
1位:リリアナ(絶対神)
2位:ルナ(世話係・餌やり)
3位:ポチ(番犬・クッション)
圏外:ジークフリート(害獣・最下層)
「犬以下……私は犬以下なのか……!!」
ジークフリートは膝から崩れ落ち、床をバンバンと叩いて嘆いた。
しかし、誰も彼を慰めない。
離れの平和な朝は、今日も夫の悲痛な叫びと共に始まるのだった。
【おしらせ】
※2/2(月)
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