12.その秘密、夫には教えません
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
翌朝、離れの裏手にある洗い場。
元奴隷のルナは早朝から、井戸水を張ったタライに向かっていた。
外気は肌を刺すように冷たい。水温など氷水に近いだろう。
だが、ルナは袖を捲り上げ、リリアナの衣類を洗濯板に押し当てていた。
「主様の清らかな衣類……。私の手で、塵一つ残さず浄化してみせます」
その瞳は使命感に燃えているが、白い指先は寒さで真っ赤に腫れ上がっている。
様子を見に来たリリアナは、思わず眉をひそめた。
「見てるだけで寒いわ。代わって」
「めっ、滅相もございません! これは私の聖務です!」
(聖務って……大袈裟な)
ルナにとって、リリアナは命の恩人以上の存在なのだろう。信奉してもしょうがないのかもしれない。
とはいえ、凍えるような寒さの中、洗濯をさせるわけにはいかなかった。
別にルナを雑に扱う気はない。人間だし。エルフだけども。
「いいから。あかぎれになったら見てて痛々しいし」
リリアナはルナを強引に退かせると、タライの前に立った。
指先に魔力を集中させ、水面に向かって漢字を描く。
『渦』
『泡』
『回転』
魔法が発動した瞬間、タライの中の水が生き物のように蠢き始めた。
ゴウゴウと音を立てて高速回転し、洗剤が一瞬で泡立ち、真っ白な渦となって衣類を揉み洗いしていく。
遠心力と水流による、全自動洗濯の完成だ。
数分後、水が排水され、仕上げに新たな文字が刻まれる。
『熱風』
『乾燥』
ブォォォォ! とドライヤーのような温風が吹き荒れ、衣類の水分を一瞬で飛ばした。
洗い立て、乾き立てのほかほかの洗濯物が出来上がる。
「……はい、終わり」
リリアナがタオルを手に取ると、ルナは口をあんぐりと開けて固まっていた。
「ぶ、物理法則を無視しています……! 普通の付与魔法なら、魔力回路の構築に一時間はかかるはず……それを一瞬で、しかもこれほど精密に……」
ルナは震える声で呟き、リリアナを見つめた。
その瞳には、畏怖と困惑が入り混じっている。
「主様、貴方様は一体……? ただの人間とは到底思えません」
「ああ、うん。まあ、いっか」
リリアナは頭を掻いた。
今後も現代知識を使った魔道具を量産する予定だ。そのたびに誤魔化すのも面倒くさい。
こいつになら、言ってもいいだろう。
「実は私、記憶があるのよ」
「記憶、ですか?」
「そう。『異世界』の記憶。ここじゃない別の世界で生きてた時の知識があるの。だから、この世界の常識とか魔法理論とか、よく知らないし無視しちゃうのよね」
リリアナはあっけらかんと告白した。
転生者であるという事実は、この世界では異端扱いされかねない秘密だ。
だが、ルナの反応は斜め上だった。
「異世界……! なるほど、やはりそうでしたか!」
ルナはハッとした顔で膝を打った。
「常人離れした魔力、慈愛の心、そしてこの世の理を超越した御業……。貴方様は、高位次元(神界)から降臨された御方だったのですね!」
「あー、うん。まあそんな感じでいいわ」
訂正するのも面倒なので、リリアナは適当に肯定した。
「承知いたしました。この秘密、墓場まで持っていきます。いや、魂が輪廻の輪に戻ろうとも、決して口外いたしません」
ルナは胸に手を当て、重々しく誓った。
相変わらず忠誠心のベクトルが重い。
「うん、助かる。特にジークには内緒ね。あいつに言うと、説明するのが面倒だし、たぶん話がこじれるから」
「御意。害獣(あの男)には過ぎた真実です」
主従の間で秘密の共有が成立した、その時だ。
ガサガサッ!!
背後の茂みが激しく揺れた。
バッ! と飛び出してきたのは、草まみれの公爵、ジークフリートだ。
「秘密!? 今、秘密と言ったか!?」
彼は血走った目でリリアナとルナを交互に見た。
どうやら、リリアナが心配で、朝から茂みに潜んでいたらしい。
「リリー! 私にも教えろ! 夫婦の間で隠し事はいけない! 『二人だけの秘密』などと、私が一番嫌いな言葉だ!」
「嫌です。どうでもいい話なので」
リリアナは即答し、洗濯物をカゴに入れた。
「どうでもよくない! リリーのことなら、髪の毛一本の情報でも国家機密レベルだ! 教えろ!」
「うるさいですね。ルナ、行きますよ」
「はい、主様」
リリアナに無視されたジークフリートは、矛先をルナに向けた。
「おい貴様! お前から言え! 主人の命令だぞ!」
「お断りします」
ルナは冷徹な瞳で一蹴した。
「これは主様と私だけの、神聖な盟約です。部外者は去ってください」
「ぶ、部外者だとぉぉぉ!?」
ジークフリートは絶叫し、その場に崩れ落ちた。
「夫だぞ! 私は夫だぞ! なぜだ! なぜ昨日来たばかりのメイドが、私より深くリリーを知っているんだ!」
彼は嫉妬のあまり、芝生の上をゴロゴロとのたうち回った。
地面がバリバリと凍りつき、周囲の草花が氷漬けになっていく。
迷惑極まりない。
「……はぁ。ルナ、片付けて」
「御意」
リリアナが命じると、ルナは無表情で呪文を唱え、暴れる公爵の周囲に結界を張って音と冷気を遮断した。
氷の公爵も、リリアナの前ではただの騒がしい不審者でしかない。
「リリー! リリーぇぇぇ!!」
結界の中でパクパクと口を動かし、悲痛な叫びを上げ続ける夫を放置して、リリアナは暖かい離れへと戻っていった。
【おしらせ】
※1/30(金)
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