Act.7 ディミヌエンド
翌日の新聞の一面には、政治資金が盗まれた件が大々的に取り上げられていたが、そこには怪盗ルドルフの名前のみが記されており、怪盗リアム、そして歌姫マリアの名は一切載っていなかった。
カイルは安心した様子で呟く。
「怪盗リアムどころかマリアの名すら載らなくてよかったな。汚職議員と関わってたことが知れたら、怪盗であることがバレなくてもイメージダウンするぜ。」
「そうね。あなたの茶番はひどいものだったけれど、私の盗みがバレずに済んだのはそのおかげだから感謝してるわ。」
しばらく汚職議員相手に行った盗みについて語り合った後、カイルは真剣な表情でマリアに告げた。
「マリア……実は、お前には歌姫としての活動に専念してほしいと思ってるんだ。」
マリアはこれまでのカイルの行動から、彼が怪盗をやめてほしいと思っていることを薄々察していた。その言葉を受け入れた彼女は静かに言った。
「カイル……あなたはそう言うと思ってたわ。これまでも何度か助けられてきたから……私も、怪盗と歌姫の両立には少し疲れたし、それがいいのかもしれないわね。」
マリアはそう呟くと目を伏せた。湿っぽい雰囲気が漂う中、カイルは一か八かでマリアに告白した。
「俺は以前、お前の歌が好きだと言ったが……今は違う。お前のことが好きだ。」
マリアは驚きの表情を浮かべて顔を上げた。彼の真剣な眼差しに心が揺れたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「カイル……ありがとう。あなたの気持ちは嬉しいわ。でも、私が歌姫としての道に専念するためには、怪盗としての自分に決別する必要があるの。あなたの思いについても慎重に考えなければならないし、少し時間をくれる?」
カイルは理解したように頷き、優しく手を取った。
「わかった。お前がどんな決断をしても、俺は受け入れるし応援する。だが、助けが必要な時は言ってくれ。喜んで手を貸すからさ。」
マリアはその言葉に感謝し、しっかりと手を握り返した。
「ありがとう、カイル。あなたの支えがあったからこそ、私はここまで来れたの。」
マリアは心の整理をするため、カイルと別れて自宅へ帰った。彼女は数日間、歌姫としての活動も体調不良の名目で中止し、自分とゆっくり向き合う時間を作った。