Act.4 ラルゴ・ルバート
前回のターゲットが予想以上にセキュリティに力を入れていたことで盗みに苦戦し、気疲れしていたマリアは、次に向けて新たな作戦を練っていた。
次のターゲットを自身の歌謡ショーに招き、その場で盗みを働くことを画策したのだ。
マリアが選んだターゲットは、歩くミラーボールの異名を持つ女性・アマンダ。彼女は、その美貌を活かして男たちに貢がせた金で買い占めた宝石を散りばめたドレスを複数所有し、パーティーなどの出先にその一部を持ち込んでは気分に応じて着替える癖があった。
マリアは、アマンダが着ている一着を除いてゲストルームに保管されている全てのドレスを盗むことを計画した。
マリアはアマンダに、三日後の夜に開く自身の単独歌謡ショーへの招待状を送り、入念な準備と建物の構造の把握を済ませた。そして迎えたショー当日、アマンダは予想通りに予備のジュエリードレスを数着持参していた。
内心ではアマンダのドレスが似合っていないと思いながらも、絶大な人気を誇る歌姫として愛想良く振る舞い、彼女のドレスを褒めたマリア。
「とても素敵なドレスですね、アマンダさん。本当にお似合いですわ。」
「ふふっ、当然ですよ。このくらい煌びやかでなければ、私に相応しい衣装とは言えないもの。」
アマンダが嬉しそうに微笑むと、マリアはショーの準備と称してその場を後にした。迅速に怪盗リアムの衣装に身を包むと、彼女はアマンダが予備として用意していたジュエリードレス四着を巧妙に盗み出した。代わりに、予め用意しておいた、アマンダに似合いそうなドレスを一着残して部屋を後にした。それは過剰な煌めきを放つジュエリードレスとは正反対の、闇に溶け込むような紺色のシックなデザインだった。
「アマンダのファッションセンス、これで改善されるといいんだけど。」
そして、盗み出したドレスを舞台袖に隠し、再び歌姫マリアとして舞台に立った。
ショーは大成功に終わり、観客たちから熱烈な拍手が送られる中、マリアは華やかに笑顔を振りまいていた。その後、誰にも怪しまれることなく舞台袖に戻り、隠していたドレスを回収した。
夜が更けると、マリアは再び怪盗リアムとしての姿に戻り、ラウルのもとへ向かった。ラウルはいつものように静かに彼女を迎え、ドレスを手際よく査定し、換金を済ませた。
「いつもありがとうね。」
「どうも。」
短い言葉のやりとりで、二人の間の信頼関係が確認された。その後、マリアは手に入れた資金を用い、孤児院や老人ホームに寄付をし、貧しい家庭の郵便受けに現金を投函する。彼女の二重生活は、密かに、しかし大胆に続いていくのであった。