Act.3 インテルメッツォ
マリアは怪盗リアムとしての姿のまま、数年の付き合いになる商売仲間・ラウルのもとへ向かった。ラウルの古びた倉庫は、怪盗たちの戦利品を換金するための秘密の拠点のうちの一つとなっていた。
彼女が扉を軽くノックすると、ラウルが無言で招き入れ、盗み出された物品を手際よく査定し、その価値に見合う金額と引き換える。
マリアはいつものように礼を告げる。「いつもありがとう。」
そんな彼女に、ラウルもいつものように短く返事をした。「どうも。」
この必要最低限とさえ言えないようなやりとりが、彼らの間に築かれた深い信頼の証だった。言葉少なに、しかし確固たる信頼を胸に、マリアはラウルのもとを後にした。
その足で、彼女は怪盗リアムの名で得た金と、マリアとしての収入の一部を孤児院や老人ホームに寄付し、貧しい家庭の郵便受けに現金を投函していった。彼女の行動は、ただ盗むためだけではなく、社会の不正を糾し、弱き者を助けるためのものであった。
ある日、マリアがひと仕事終えていつものようにラウルのもとへ向かうと、思いもよらぬ人物と再会した。ハドリーの邸宅で遭遇した黒ずくめの男が、そこにいたのだ。驚きを隠しながら、マリアは笑みを浮かべて話しかけた。
「あら、久しぶりね。あの時はお宝を横取りしてごめんなさいね。」
男は軽い雰囲気で応えた。「いや、いいさ。俺もお前もやってることは似たようなものだからな。……まあ、俺は歌ったりしないただの怪盗だが。」
怪盗リアムではなく歌姫マリアであることを見抜かれたことに驚きを感じながらも、本来の用事を思い出し、ラウルの方を向き直る。黒ずくめの男も同様にラウルに宝石を渡し、換金を済ませた。
「いつも助かってるぜ。」
対するラウルも、マリアの時と同様に「どうも。」と短く返事をした。
要件を済ませ、悠々と立ち去ろうとした男に、マリアは声をかけた。
「あなたはいったい何者なの……?」
男はしばらく迷った様子を見せたが、やがて視線を上げて名乗る。
「うーん……まあ、本名でいいか。俺はカイルだ、今後ともよろしくな。」
マリアはその名前を心に刻み、軽く頷いた。
「怪盗としての名前を聞きたかったんだけど……カイルね。こちらこそよろしく。」
カイルは背を向けながら、軽く手を振って去っていった。彼の背中を見送りながら、マリアは新たな仲間、あるいはライバルの存在を感じた。このカイルとの再会が偶然なのか、それとも運命なのか。彼女の心の中にはあらゆる感情が巡っていた。