Act.1 アレグロ・ジョコーソ
高層ビルが立ち並ぶ夜の都市、ネオンが煌めく中、マリアの歌声が華やかなホールを包んでいた。彼女はその美しい声とともに世界中のファンを魅了し、"歌姫"として知られる人気歌手だった。だが、彼女の本当の姿を知る者はほとんどいない。
舞台の裏、煌びやかなドレスを脱ぎ捨てると、マリアは黒ずくめの衣装に身を包み、まるで別人のような冷たい目をした。彼女は"怪盗リアム"として知られる義賊であり、富豪や闇商人たちの不正な財産を標的に、夜な夜な街に繰り出していた。
その夜もまた、マリアはリアムとしての顔を持ち、闇に紛れて行動を開始した。次なる標的は、密輸や裏取引などで金銭を得て、今や豪邸に住むほどの財を成した悪名高い富豪、ハドリー。彼の豪奢なパーティーに招かれたのは、歌姫マリアとしてであり、ステージを降りて怪盗としての服装に着替えたマリアは、歌姫として振舞っている際にハドリーから自慢された密輸品の宝石コレクションを狙って行動を開始した。
幸いなことに、警備員はパーティー会場の警備に駆り出されていた上、コレクションが飾られた彼のプライベートルームにはセキュリティの類も皆無だった。あまりにも容易く仕事が進み、思わず笑みをこぼすマリア。
「ふふっ、大量の宝石がこんな簡単に盗み出せるなんてね。あの人の防犯意識はどうなってるのかしら。」
ガラスケースの中に輝く数々の宝石。マリアは手際よくそれらをバッグに詰め込む。その手つきは迅速かつ正確で、一分の無駄もなかった。だが、その時、微かに聞こえた足音に彼女の耳が反応した。
マリアがハドリーの部屋の隅に隠れていると、同業者と思われる黒ずくめの男がやってきた。やがて彼の目は宝石コレクションに留まった。
「……数がやけに少ないが、残りの宝石をもらっていこう。……じゃあな、お嬢さん。」と言い残すと、男は立ち去った。
マリアは、彼が自分の存在に気づいていたことを悟り、わずかな悔しさと自分の未熟さを感じた。「あら、私もまだまだみたいね……いいえ、あの人が意外とできる人なのかもしれないわね。」と呟きながらも、彼女はすぐに気を取り直し、冷静に行動を続けた。