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7話 私はこの世界が大好きです!!

「馬車っていうのも、なかなか素敵ですねぇ」


 私とカイル大佐は、のんびりと馬車に揺られながら最初にいた森へと帰還中だ。聖バーベル教会の建物を出てから聞かされたのだが、私は随分と遠い場所まで魔法で転移させられていたらしい。


「そういえば大佐、どうして私の居場所が分かったんですか?」


 私は素直な疑問を大佐にぶつけてみる。彼は確かに強いが探索魔法などは習得していなかった筈だ。


「弟子たちが教えてくれたのだ」


「ふぇっ?」


「以前に筋トレ指南したスライムたちだ。彼らの情報網は広い。

 コハルを探していると言ったら、すぐに居場所を見つけてくれた」


「えええっ、スライムちゃん、凄すぎ!」


「彼らも一緒にコハルを助けに行くと言っていたんだがな」


「そうなんですか、何か嬉しい! あれ、でも、大佐お一人ですよね」


「ああ。君の身に何かがあってからでは遅い。

 全速力で駆けてきた結果、スライムたちを置いてきてしまったようだ」


「全力疾走で来てくれたんですか!? 徒歩で???」


「当たり前だ。君の為だからな」


「え、えへへ、ありがとうございます」


「構わない、上官として当然のことをしたまでだ」


 カイル大佐の優しさが身に染みる。本当に全力で助けに来てくれたのだと実感して、胸が熱くなった。


「それから、コハル。君と離れる前に話していたことについてだが」


「へっ……? あ!!」


 そうだ、すっかり忘れていたが、異世界転生のことが大佐にもばれてしまいそうなんだった。時間はあれからたっぷりあったが、当然、上手い言い訳なんて思いついていない。


「あの、その、あれはその……!!」


「流石の私も、異世界転生というのが、筋トレではないことは分かる」


「ひうっ……!」


 ごくごく冷静なカイル大佐の言葉に、私は硬直した。そ、そうですよね、舐めた言い訳してすみませんでした! 大佐は真面目で実直な性格だ。嘘を吐いたことは、流石に咎められるかもしれない。

 私が困り果てて俯いていると、ぽん、と頭の上に温かい掌の感触がした。


「え……」


「だが、言いにくいことなら、言わなくて良い。君が話す気になるまで待つ」


「大佐?」


「だから、その、そんなに暗い顔をしないでくれ。

 コハルは笑っていた方がいい。

 君が居なくなっていた間、ずっと何か落ち着かず物足りなかったのだ。

 ……君が戻って来てくれて良かった」


 ぶわっと、自分の顔が熱くなるのを感じた。カイル大佐は、いつもの彼らしくなく、話し相手の私から少しだけ視線をそらしている。


(これって……)


 私は大佐の言葉にときめいたし、心が躍った。だけど同時に、少しだけ物寂しさも覚えた。大佐が私を大事にしてくれるのは、多分、私がプレイヤーキャラだからだ。


 このゲームをやり込んでいたからこそ、よく分かっている。AIキャラは、基本的にプレイヤーに好感を持つように設計されているのだ。なぜなら、関係が断絶されたら話が進まなくなるから。

 特にカイル大佐は、”冷徹で寡黙だが、心の中ではプレイヤーのことをいつも気にかけている”とキャラ設定に明記されていた。


 勿論、ゲームをしている時は、それで何の問題も無かった。相手がAIだとは分かっていながらも、彼の言動に私は大いに萌え、大いに盛り上がり、大いに恋をしていた。


 だけど、この世界の彼は……一体、どういう存在なのだろう。やはり中身はAIなのだろうか。それとも、心というものを持っているのだろうか。明らかによく分からないバグの影響を受けている感じはあるのだが、それを彼自身はどう認識しているのだろう。


 私は転生して、カイル大佐と同じ世界で呼吸して、同じ大地を踏みしめて、彼を一人の人間と思いたい気持ちが芽生え始めている自分に気づいた。最初は推しとのリアル生活を、のんきに楽しむつもりしかなかったのに。


「大佐、あの、私、その……」


 全てを素直に言葉にして、問いかけてしまえば楽だろう。でも、それで得られた答えが正解だという保証は無い。結局は、私自身がこの世界で、見て聞いて感じたものが答えなのかもしれない。

 ならばまず、この目の前の大佐に、真面目に向き合わなくては。推しだ転生だとはしゃぐだけでなく、一生懸命この世界で生きてみようと、改めて思えたのだった。


「確かに、異世界転生、について……まだ詳しいことは、お話しできません。

 ただ、一つ言えるのは、私がここではない別の世界から来たということです。信じて貰えるかは分かりませんが……、私は別の世界で生きて、死んで、いまこの場所にいるのです」


 ここがゲームの世界で、彼が推しだということを伏せて、私は事情を伝えた。それでも大分、荒唐無稽な内容だとは思ったけれど――。


「分かった。君がそういうなら、信じよう」


「え、あっさり!」


「コハルの顔を見ていれば、嘘かどうかくらいは分かる」


「ぐぬぬっ……、そ、そんなに私は分かりやすいですか!?」


「ああ、とても」


 カイル大佐が慈しむような笑みを浮かべながらそういうものだから、私はまたドキリとしてしまう。こうなると、半裸であることすらほとんど気にならなくなるから不思議なものだ。


「それより、君は大丈夫なのか? 

 話の通りなら、死を経験したということだろう。辛くはないか?」


「えっ……あ、そ、それは大丈夫です。

 何か一瞬のことで、あまり実感がないし……。

 家族も友人も、好きだし仲も良かったけど、さっぱりした関係だったんです」


 少し考えてから、私は言葉を続ける。


「そりゃあ、死んで孤独に一人きりなら辛くなったかもしれないですけれど。

 今の私にはこの世界と大佐がいますし。

 それなら、ここで思い切り楽しんで生きた方が、皆も安心すると思うんです!」


 これは心からの本音だった。常に前向き、今を一生懸命、それが私の良い所。家族からも友人からも、いつも言われていた言葉だ。


「ふっ……、ならば安心した。

 では私も気兼ねなく、今後も君に接することにしよう」


「あ、はいっ。勿論です! 宜しくお願いします!」


 くすくすと、私たちはどちらからともなく笑い合う。何だか本当の意味でこの世界に迎え入れられた気がして、清々しい心地がした。

 馬車から眺める景色も、先程までより、色鮮やかに輝いて見え――


「……!! 大佐っ、あれ! 見てください、あれっ!!」


「なんだ、追手か!?」


「いえ――スライムちゃん達です!!」


 ぷよぷよとした大集団が、必死で馬車を追いかけてきている姿が見えた。


「す、凄い数ですね!? あんなに馬車に乗れるでしょうか……」


「無理だろうな。ということは、解決策は一つしかない」


 大佐は御者に馬車を止めるように告げると、すっと大地に降り立った。


「ここからは走って帰るぞ!!」


「ひえっ……! 結構な距離ありますよね!?」


「ああ、良い筋トレになるな!!」


「……は、はは」


 馬車から降りてそんな会話をしている内に、筋肉スライム軍団が私たちに合流した。あれ、少し見ない間にこの子たち、また筋肉が増えた?


「さあ全員、行くぞ!」


 大佐の号令に応えるように、スライムたちはぷよぷよと飛び跳ねた。私は諦めたように笑いながら、両手を空へと突き上げる。


「おー!!」


 こうして私と大佐とスライム軍団たちは、マラソンしながら帰路へとついたのだった。

珍しくちょっとだけ真面目な話でした!そして次回、筋肉クッキング!!

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