49話 筋肉は全てを解決する!!
私とカイル大佐は、マッスル国立公園でのデート真っ最中だ。
人が一番集まっている中央広場に向かう道すがら、私はビルドさんの近況について話していた。
「ビルドさんは転移魔法が得意ですし、この世界の状況把握能力も凄いですからね。プロテインの滝の水を各地に運ぶのは天職だったみたいです!」
「適材適所ということか」
「なんだかんだで、現地の方にも感謝されているみたいです」
「……そうか」
大佐は小さく息を吐き出すと、空を見上げながら笑った。
「奴にも、居場所が見つかると良いな!」
私は大佐の言葉に目を見開くと、表情を綻ばせる。
「はい、大佐! それにグルメシアでの農業は、凄い成果もあったんですよ!
……ほら、こっちです、こっち!!」
公園の大広場は賑わっており、沢山の露店が並んでいる。
私はそのうちのひとつの屋台を指さした。
「これは……」
その屋台に並んだ物を見て、大佐は息を飲む。
「ここはグルメシアからの出張露店なんです! プロテインの滝の水を使ってグルメシアで農業を行った結果……筋肉とグルメが融合した食材が誕生したんです!!」
目玉商品として売り出されているのは、ゴールデンビーフトマトの串焼き。
キラキラと金色に輝くトマトは、噛めば何故か肉汁があふれだしてくる。
しかも驚きの、タンパク質含有率50%である!
「むぅ、美味いっ!!」
――パァンッ!!
串焼きを購入して食べた大佐の服の上半身が、美味しさのあまり弾けた。
「そうでしょう、そうでしょう!」
私も同意しつつ自分のトマト串を頬張るが、ひとつ問題に気づいた。
いつもは大佐の半裸対策で替えの服を持ち歩いているのだが、今日はデートなので何も持って来ていない。
「流石にずっと、この状態というのは……! あ、あちらのお店に、服が置いてあるみたいですよ。行ってみましょう!」
服や雑貨などが並ぶ露店の存在に気づいて、私はそちらに駆けていく。
そして近づいた結果、そこが『筋肉聖女&筋肉大佐グッズショップ』だったことを知る。
「いらっしゃいませ、カイル大佐、聖女さま!!」
にこやかに接客をしてくれたのは、筋肉風邪の時にお世話になった黒髪の軍医さんだった。
「って、何故ここに!?」
「いやぁ、大佐と聖女様のロマンス本の人気が好調で! 他のグッズも出してみたら売れ行き順調でして、最終的には公式に販売を任されるようになってしまいました!」
「公式と言っても、当人はノータッチですけど……!」
「許可は国王様から頂いております!」
「それはもう公式で間違いないですねぇ」
私たちのやりとりをよそに、カイル大佐は平積みされている新刊ロマンス本『二頭筋で誓う永遠』を手に取っている。
大佐は興味深そうにその本をぱらりとめくった。
そしてしばらく読み進めて――眉を寄せて真っ赤になると本を閉じて、そっと元の場所に戻した。
(た、大佐……!)
一連の行動を密かに目撃してしまった私は、その可愛らしさに悶えつつも気づかないふりをする。
それから、話を変えるように、露店の壁にかかっている服を指さした。
「ほら、大佐、シャツもグッズとして販売されていますよ! どれでもいいので、好きなものを購入していきましょう!!」
「ふむ。随分と沢山あるな」
十種類以上ある絵柄の中から、カイル大佐が選んだのは――、
「あの、大佐、本当にそれで良かったんですか!?」
「問題ない」
ででーんと筋肉聖女である私の顔が、大きく描かれたものだった。
ちなみに大佐の分厚い胸筋でシャツは引き延ばされ、私の顔はびょーんと伸びてしまっている。
「う、嬉しいような、恥ずかしいような……。えへへ……」
私は替え用のシャツと自分用の新刊もひっそり購入して、露店の並ぶエリアを後にする。
公園の広い芝生エリアまでやってくると、筋トレに励んでいる大集団を見つけた。
しかも、その先頭にいるのは、ダンベリア国王であるバルク3世様と、キンバリー王女様である。
「ダンベルはー?」
「「「相棒だっ!!」」」
「プロテインはー?」
「「「命の水だっ!!」」」
「筋肉はー?」
「「「裏切らないっ!!!」」」
「宜しい! ならば筋トレだ!! いくぞ、第33セッション地獄の背筋コース!!」
「「「うおおおおおおっ!!!」」」
近づくのも躊躇うほどの熱狂ぶりを見せつつ、彼らは筋トレに没頭している。
よく見れば集団の中には、明らかにグルメシア国民らしき人もいた。
さらに、筋肉スライムやバルキーモンキーたちが筋トレ補助要員として活躍している。
「……すごいものを見てしまいました」
私が勢いに完全に圧倒されていると、カイル大佐が明らかにうずうずしはじめた。
「くっ……、く、くぅ……!!」
「大佐?」
「くううぅ……!」
「……っ!!」
そのとき、筋肉聖女として完全に覚醒を果たした私に、大佐の筋肉の声が聞こえてきた!
(鍛えたいっ! 筋トレしたい!)
そう、大佐はあの筋トレ集団に混ざりたくて仕方がないのだ。
しかし必死にその衝動を堪えている。なぜなら――
(だが、折角のコハルとのデートを! 中断するわけには!)
「きゅんっ!」
私の為に大好きなトレーニングを我慢しようとしてくれる大佐の姿に、私はときめいた。
そして、こうも思ったのだ。
――筋トレを愛する人に我慢させるなんて、筋肉聖女の名が廃る!
「大佐、行きましょう!!」
「むっ、どうした?」
「したいんでしょう――筋トレ!」
「……っ! しかしコハル、今日は……」
「筋トレデートだって、私たちらしいですよ。でしょう!」
にっこりと微笑む私に、大佐は驚いた表情を見せた後、微笑み返してくれた。
「まったく、コハルにはかなわないな!」
私は少しだけ勇気を出して、ぎゅっと大佐の手を握って走り出す。
「そうと決まれば、善は急げです。おーい、みなさーん。私たちも参加しまーす!!」
「ふふ……」
大佐は小さく笑い声を零しつつ、私の手を握り返してくれた。
筋トレ集団に合流した私たちは大歓迎され、号令を任される。
私たちは顔を見合わせると、大きな声で叫んだ。
「いくぞ、みんな!」
「いきますよ、みなさん!」
「「せーのっ、」」
「「筋肉は全てを解決する!!」」
後日談はこれで終わりですが、実は最後にエピローグがあります。
この世界の謎が判明しますので、もう少し御付き合いくださると幸いです!




