48話 大佐とデートです!!
ダンベリアとグルメシアの戦争が終わって、国はすっかり平和になった。
そして私は見習いの立場を卒業し、晴れて正式な筋肉聖女に任命されることになったのだ!
「うむ、めでたいな!」
軍の指令室で内示を伝えてくれた大佐が、感慨深そうに腕を組む。
「なんだか、ちょっと照れますね、えへへ」
私は大佐の言葉に、頬をかきながら表情を緩めた。
平和になったので戦闘任務は殆どなくなったが、私は相変わらず元気にダンベリア軍で働いている。
今は農作業の手伝いや、グルメシアに続く道路の整備など、社会支援活動が主な仕事だ。
「祝いもかねて、今度の休みに出かけるか!」
「はい、大佐! ……はいっ!?」
反射的に返事をした後、私はハッとする。
「え、た、大佐? それって、もしかして、もしかして……デートですか!?」
ここにきて、大変なイベントが発生してしまった!
あたふたする私を、大佐は面白そうに眺めているのだった。
◇ ◇ ◇
デートが決まってから、私はダンベリア王宮へと駆け込んだ。
以前お世話になった侍女さん達に、デートの相談をする為だ。
「きゃーっ! 素敵じゃない!!」
みんな大はしゃぎで快く話を聞いてくれた。
その中でも、一番悩んだのは当日着ていく衣装だった。様々な案が出た。
「可愛いめのワンピースが良いですよ!」
「いっそドレスを新調しちゃいます!?」
「筋肉映えを狙うなら、トレーニングウェアよね!」
わいわいと話し合いを重ねて、ようやく服装が決定する。
――そして、大佐とのデートの日がやって来た。
場所はダンベリアの中心部にある、マッスル国立公園である。
「大佐、おはようございます!」
私は結局、聖女服の白いローブをまとっていた。
裾の部分の金の刺繍は、侍女さん達が好意で追加してくれたものだ。
今日は筋肉聖女就任のお祝いでもあるのだし、この姿は自分の頑張りが認められた証みたいで、好きだったから。
服でおめかしする代わりに髪の毛は綺麗に整えて、マッスル菫の小さな花飾りを付けている。
少しは可愛いと思って貰えるだろうか。
私はドキドキしながら、大佐を見つめる。
「ああ。おはよう!」
一方カイル大佐は、黒いタンクトップの上に軍用ジャケットをラフに羽織り、下はカーゴパンツという服装だった。
――よく考えれば、大佐の私服を初めて見たかもしれない。
「かっ、かか、かっこよ……!!」
思わず語彙力が消失した私から、大佐が困ったように視線を逸らす。
「そうか。変では、ないだろうか。私は軍服と正装とトレーニングウェアしか持っていなくてな。コハルと出かける時、どれを着ていくべきかバルクに相談したら……すべて却下されて、最終的にこの格好に落ち着いたのだ」
(バルク3世様ぁ……! ありがとうございます!!)
私は国王様に感謝の祈りを捧げた。
もし彼の助言がなければ、トレーニングウェアでデートにやってくるカイル大佐が誕生していたのかもしれないと思うと――いや、正直、それもちょっと見てみたいけれど!
でも、やっぱり今の格好が最高なので、相談してくれて本当に良かった。
「とっても似合っています! 最高です! 自信を持ってください、大佐っ!!」
私の言葉に、大佐の表情が僅かに緩んだ気がした。
「コハルがそう言うのなら……、良かった」
照れた大佐も可愛いなぁと、私がにこにこ眺めていると、彼の視線が改めて私へと向けられる。
「今日の君の姿も、とても、綺麗だ」
「……っ!!!!」
真っ直ぐ見つめられながら、不意打ちでそんなことを言われたものだから、私は真っ赤になってしまう。
「あ、ああっ、ありがとうございます!?」
声を裏返らせながらお礼を言うと、私は恥ずかしさを誤魔化す為に歩き出す。
「さあさあっ! 行きましょう! 公園には露店も出ているみたいですし、中央広場の方へ!!」
「ふふ、分かった」
速足の私を追いかけるように、大佐がゆっくりと付いてきてくれる。
やがて二人は足並みをそろえ直して、仲良く並んで公園の道を歩き始めた。
穏やかな風が吹き抜けていく。
木々や花々が元気に景色を彩っていて、心地良い。
「ふむ。完成したようだな」
大佐が中央広場の入口に建てられている像を見上げながら、感慨深そうに呟く。
「あ、こ、これは……!」
それはなんと、カイル大佐と私の銅像だった。
しかも、マッスルダブルパンチの瞬間を切り取った、躍動感あふれる像である。
「自分の銅像って、不思議な感じがしますねぇ」
私は物珍しくなり、その像の周りをくるりと一周する。
「んんんっ、流石カイル大佐、最高の筋肉です!! この彫像家さんは良い腕をしていますね! まあ、本物にはさすがにかないませんけれど……!」
艶やかな上腕二頭筋の質感、張りつめた僧帽筋の迫力、腹筋の力強さ、これはまさにプロの仕事だ。
私が玄人ぶって、うんうんと頷いていると、大佐がポツリと零した。
「コハルは本当に頑張ったな」
「ふぇっ!?」
「あの戦い、私は自分の筋肉が通用しきらず、動揺していた。力を合わせて勝利できたのは、君のおかげだ」
「え、ええっ。そんな……。私は、皆の、大佐の力を信じていただけですよ!」
褒められて表情を緩めながらも、勝利は皆のおかげだと私は思う。
それに世界が崩壊しかけた時に私が戻って来られたのも、皆と、大佐のおかげだ。
「あのあと、皆さんにも事情を説明して……それでも快く私を受け入れて貰えたこと、とっても感謝しているんです!」
「それは当たり前のことだ。みんな、君が本当に頑張ってきたことはよく分かっているからな」
「えへへ……、それならこれからは、もっともっと頑張らなくちゃですね!」
私がお道化てガッツポーズするのを、大佐は優しく目を細めて見つめていた。
やがて私たちは、会話しながらゆっくりと中央広場の中へと移動していく。
「そういえば、先日、ハバネロさんから手紙が来たんですが」
「ああ、精鋭軍に復帰したそうだな」
「ええ。幸い、あのときの怪我の回復も早かったみたいで。今は何と、グルメリアス王にお料理を教えているそうですよ!!」
「何っ!? あのグルメリアス王が、料理を」
「食糧難も改善しつつあるみたいで、復興は順調みたいです」
「それは喜ばしいことだな。両国の国交が回復してからは、互いに訪問客も増えてきたと聞いている」
「そうですね! 私たち軍でも、グルメシアの開墾作業をお手伝いに行く予定がありましたよね」
「ああ。広い畑が安定すれば、食べる物に困ることも無くなる」
「その為には、ビルドさんにも頑張って貰わなくちゃいけませんね!」
「あいつか……。今のところ、逃げずに真面目に働いているらしいな」
カイル大佐が少しだけ遠い目をする。
ビルドさんに対しては、些か複雑な感情があるらしい。
私はその姿に苦笑しつつも、それでも彼を受け入れてくれる大佐に感謝した。
「はい、ゴリーノさんと一緒に、毎日せっせと働いているみたいですよ!」
そして手紙で知った詳しい内容を、大佐に話し始めた。




