表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/47

47話 圧倒的ハッピーエンド!! 

 カイル大佐の筋肉が、暗闇を打ち払った。

 中空に投げ出された私を、大佐はしっかりと逞しい腕で抱きとめてくれる。


 世界が眩い光に包まれて、目を開けていられない。


「た、大佐っ……!!」


 果たして、この世界に何が起きているのか。

 理解が追い付かないが、ただひとつ、私の中で確かなことがある。 


 ――もう、大佐と離れ離れになるのは嫌!

 

 私は必死に大佐にしがみついた。


「私……、私も、カイル大佐が大好きです! ずっと、ずっとずっと、一緒に居たいです!!!」


 私が大きな声で叫んだ瞬間、すんっと光が静まり、かわりに温かい風が頬を撫でた。


「ふぇ?」


 おそるおそる目を開けてみる。大丈夫だ、全然眩しくない。

 気づけば私はカイル大佐に抱きかかえられたまま、廃墟と化した大聖堂まで戻って来ていたようだ。

 

 そして、その場にいる皆――ダンベリア・グルメシア両国の兵士や随行団、モンスター軍団たち、バルク3世様とグルメリアス王は、唖然とした様子で私たちを見つめている。


 きっと、突然あらわれた私たちに驚いているのだろう。


「……」

「……」


 暫くの間、沈黙が流れた。

 私とカイル大佐は、お互いに顔を見合わせる。


 とりあえず、皆さんに何か説明をしなくては。

 ええと、何か何か、言わなくてはいけないことは――


「皆さん、お騒がせしました! 世界は無事です!!」


 私の宣言に、一拍の間をおいてから、わあっと大きな歓声が上がった。


「やったぜえええっ!」

「流石大佐だ!!」

「筋肉聖女さま、ありがとおおおっ!!」

「ご結婚おめでとうございますっ!!!」


「――んっ!?!?」


 声援の中に、聞き捨てならない言葉を拾い上げて、私は目を白黒させた。


「ま、待ってください!! 色々と謝ったり説明もしたいところですけど……。結婚って、結婚って何ですか!?」


 声を裏返らせながら叫ぶ私に、バルク3世様がにこやかに答える。


「ええっ? だってコハル……。さっき、カイルとずっと一緒にいるって言っていたじゃないか」


 皆も聞いたよねぇ、と周囲に問いかけるバルク3世様に、その場の兵士たちが全員にこにこと頷いている。


「ひっ、ひぇっ、ま、まって……。あれを叫んだ時、まさか、もう、ここに戻って来ていて……!?」


 私がカイル大佐に叫んだ言葉は、実はこの場の全員に届いていたらしい。

 全く予期せぬまま、公開告白状態になってしまったという訳だ。


「……ぴぃ」


 私の意識が、空高くへ飛び立っていく……。

 先程までとは別の意味で、居た堪れない。


「コハル、しっかりしろ! 誰に聞かれようが、私は一向に構わん!!」


「きゅん!」


 カイル大佐の男らしい一言で、私の意識は戻って来た。

 我ながら、ちょろい女である。


 そして気持ちが落ち着いたところで、私は大佐の腕から降り立つ。

 和解も成立し、世界も無事で、周囲はすっかりお祝いムードだ。


「あっ」


 しかし、そんな中、一人だけ抜け殻のような表情をした人がいた。

 ビルドさんだ。

 彼は逃げようとすらせず、無気力にただ寝転がっていた。


「ビルドさん……」


 私はそっと近づいて、声をかける。

 彼は怪訝そうにむすっとしていたが、何とか返事はしてくれた。


「なんだよ。僕は負けた。完全に手詰まりだ。もう何もできない。逃げる気力もない。この世界に僕の居場所はないんだ。

 ……殺すなら殺せ」


「……っ」


 投げやりな言葉に、私は唇をかみしめる。

 彼には色々なことをされた。言いたいことも山ほどある。

 だけど、死んでほしいなんて、絶対に思わない。


「ビルドさん。私、あなたに沢山酷いことされて、酷いこと言われて、怒ってます! だけど、……わざとじゃないけれど、あなたを追い詰めてしまったのが私であるのも、分かります」


「ふん。僕は謝らないぞ」


「あなたはこの世界に居場所がないって言うけど……。本当に、そうでしたか? あなたと関わってくれた人、ぜんぶ、偽物でしたか?」


「……だとしても、それは、僕の望むものじゃ……」


 ビルドさんが顔を顰めた時、遠くから暢気な声が響き渡った。


「ビルドさまーっ!! 遅くなってすみません。美少年写真集、ちゃんと回収してきましたよ!! いやぁ、急に真っ暗になったので、途中で迷っちゃって……」


 姿を現したのは、聖バーベル教会の元司祭のゴリーノさんだった。

 彼は聖バーベル教会が崩壊した後も、ずっとビルドさんに従い続けていた男だ。


「ああ、もう、馬鹿! 空気を読め! 見たら分かるだろう、この状況。僕は負けたんだよ、負けたの!! 美少年写真集は、もういらないっ!」


「え、ええっ、負けたんですか……!? それなら戻って、作戦を練り直しましょう!!」


 素直に頷きつつもずれた提案をするゴリーノさんに、ビルドさんは頭を抱える。


「くそっ! なんで僕の傍にいるのは、こんな奴ばっかり……」


 苛立たし気にそう零していたビルドさんだったが、やがてハッとしたように、腕を降ろした。


「……それでも、お前だけは、ずっと一緒にいてくれたんだな……」


 ビルドさんの言葉に、不思議そうに首を傾げた後、ゴリーノさんは元気よく答える。


「ええ、それはもう! ビルド様は、何のとりえもないこのゴリーノを、司祭に抜擢してくださいましたから! 一生、仕えさせていただくつもりです!!」


「あんなもん、ただのくじ引きだ……。全員、マッチョで見分けがつかなかったからな……。ああもう、お前、本当に馬鹿……」


 ビルドさんは毒気を抜かれたように、がっくりと項垂れた。

 そんな彼に、グルメリアス王が声をかける。


「ビルドよ……。お前は、私を騙していたそうだな」


「……ちっ。ああ、ああ、そうだよ!!」


「お前のしたことは、すぐには許せない。だが、お前の孤独は、私にも理解できる……」


 グルメシア国のかじ取りを一人で背負い込んで追い詰められていたグルメリアス王には、世界に居場所がないと叫んだビルドさんの気持ちが分かったのかもしれない。


「だから、ダンベリア国王とも相談して、お前に新たな仕事を与えることにした」


「えぇっ!? んな、勝手に!!」


「投獄されるよりましだろう!」


「ふ、ふざけんな! 牢の方がましだ!!」


「お前には、プロテインの滝の水を運んでもらいたい。転移魔法を自在に使える、お前にしかできない仕事だ」


「……っ!」


 複雑そうな顔を浮かべるビルドさんに対して、ゴリーノさんは尊敬の眼差しを彼に向けている。


「す、凄いです、ビルド様……! ビルド様にしかできない仕事ですよ! 流石です、天才、最高っ!!」


「……くうっ」


「やりましょう! 勿論、お手伝いしますっ!!」


「ああもう、わかった、わかった!! 面倒になったら、僕は逃げるからな!!!」


 ゴリーノさんに押しに負けたのか、これまでの会話に思うところがあったのか、ビルドさんは渋々ながらも仕事をすることを了承してくれた。


◇ ◇ ◇


 こうして一件落着を迎えた私たちは、手分けして、みんな仲良く大聖堂の後片付けを行った。


 ダンベリア兵とグルメシア兵の初めての共同作業の筈だったが、何故か非常に息がぴったりとあっていて、私は驚かされた。

 どうやら筋トレで親睦を深めたらしいが、一体、いつの間にそんなことに……。


「ふうっ、片付け終わり!!」


 数時間後、すっかり作業を終えて満足げにしている私に、カイル大佐から声がかかる。


「コハル、そちらも終わったようだな」


「はい、ばっちりです! これなら夜までには国に戻れますよ!」


 見渡せば、両国の兵士たちが帰り支度を始めている。

 お互い、親しげに会話を交わして、次の再会を誓い合っている姿も見えた。


「大佐……、あの、私、色々と迷惑も、かけてしまいましたけど……」


 その光景を眺めてから、私は顔をあげる。


「皆が幸せな未来に、近付けましたよね!!」


 カイル大佐は、ニイッと笑った。


「ああ、勿論だ!!」


 ――パァンッ!!


 力強い肯定の言葉と共に、彼の上半身の服が弾け飛ぶ。

 私はその姿を見て、困ったように笑った。


「服を着てください、大佐ぁ!!」

圧倒的ハッピーエンド!!


和平食事会編、終了です!

このあとは後日談となります。


果たしてコハルちゃんとカイル大佐はどうなったのでしょうか…?

引き続きお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コハル…?誰だっけ?思い出したのは筋肉聖女見習いなんだよなぁ…うーん謎だ。 とりあえずハッピーに終わりそうで良かった!カイル大佐は安定の上半身副破りしてるし、いやー焦ったぜー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ