45話 世界崩壊の音
「ごめんなさい……っ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」
私は頭を抱えたまま、ひたすら謝っていた。
誰に? 大佐に? みんなに? きっと、この世界の全てに。
――みしみし、みしみしみしっ。
空に大きな大きな亀裂が走って、どんどん広がっていく。
ひび割れた隙間から、漆黒の闇が差し込んで来る。
私の視界が真っ暗に染まっていく。私の世界から音が消えていく。
何も見えない。何も聞こえない。
周りがどんな様子なのかも、何も分からない。
ただただ、胸に広がるのは悲しい虚しい気持ちだけ。
――みし、みしみしみし……パリンッ!!
亀裂はついに大空全てを覆い尽くし、そして最後に、空がガラスのように砕け散った。
(ああ、大佐に、みんなに、せめてきちんと、謝りたかった……)
私は何も分からないまま、その場で意識を失った。
◇ ◇ ◇
突然、空に亀裂が入ったかと思うと砕け散り、あたりは不気味な暗闇に包まれた。
コハルも暗闇に呑まれて、姿を消してしまった。
周りの地面や建物の壁にもところどころにヒビが入り、闇が吹き出してきているのが見える。
「大変だーっ……!?」
「世界が終わる!!」
「筋肉聖女さまは、何処に行ってしまったんだ!?」
動揺しながら騒ぎ立てる兵士たちを、私は一喝した。
「落ち着け! 筋肉の強さは心の強さ!!
名誉あるダンベリア兵がこの程度で狼狽えてどうする!
その筋肉に誇りを持て!」
「「「は、はいっ!!」」」
「不安であれば、指示があるまで筋トレをして待機だ!
心も落ち着き、筋肉も鍛えられ、一石二鳥だろう!」
「さ、流石カイル大佐!」
「よーし、ダンベリア国王である私が筋トレの指揮を取っちゃうよ!
グルメシアの皆も一緒に、どう?」
「この雰囲気で筋トレするのか?」
「こいつら、正気か……?」
「いや、でも、変に取り乱すよりは良いのかも……」
各国の兵士や随行団をひとまず落ち着かせると、私は取り押さえているビルド・マッソへ向き直る。
「おい、貴様! これは一体、どういうことだ!?」
ビルドは不敵な笑みを浮かべながら、ふてぶてしい態度を崩さない。
「はっ、全部さっき話した通りだよ! この世界は作り物なの!
そして創造者であるあの女がこの世界に絶望したことで、崩壊を始めた。
もう全員終わりだよ! 俺も、お前も、お前らもな!!」
「……!」
このビルドがつらつらと話していたことを、正直、全て理解できたとは言い難い。
だが、おおよその言いたいことは分かった。
「コハルが、この世界を拒絶しているのか?」
「そうだよ! 世界が崩壊しかけているのが、その証拠だ!
あいつは自分勝手に世界を作って、自分勝手に壊したんだ!!」
「違うと言っていたぞ」
「そりゃ、口では何とでも言うだろうさ!」
ビルドがせせら笑う。
「だがよ、筋肉大佐! お前だって怒っていい立場なんだぜ?
あの転生者、ずっとお前を騙して、都合よく扱っていたんだ!」
「……」
私は閉口した。話にならない。
コハルがどんな人間であるかなど、ビルドに語られなくとも、私は十分に理解している。
私はビルドを放り投げると立ち上がった。
コハルを――。
コハルを、探さなくては。