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44話 狂気! 追い詰められたビルド・マッソ!

 敵意を剥き出しにして、ビルドさんは私たちを睨みつけてくる。

 大佐は素早く皆を守るように立ちふさがり、高らかに言い放った。


「観念しろ、ビルド・マッソ!

 お前の企みは全て明らかになった。もう終わりだ!」


「うるさいっ……!

 黙れ、黙れ、黙れ、黙れえええっ!!」


 美食ロボが受けたダメージを共有しているのだろう。ビルドさんも満身創痍の状態だ。

 それでも彼の怒りは燃え盛り、収まる気配がない。


「なんなんだよ!

 僕だって、僕だって頑張ってる!!

 それなのに、全部、何もかも思い通りにならない!」


 ぐしゃぐしゃに髪をかきむしると、ビルドさんは膨大な量の魔力を集中させ始めた。

 身体への負担は限界を超えているのだろう。

 足を震わせ、血を吐きながらも、彼は攻撃態勢をやめようとしない。


「もうどうにでもなれっ!!

 こんなくだらない世界、全部、全部、ぶっ壊れちまえ!!」


 その狂気的な姿は恐ろしく、見ていて痛々しくもあった。


「び、ビルドさん、落ち着いてください!

 もうやめましょう、こんなこと……!」


「うるさい、僕に指図するな!!

 全部、全部全部、思い通りの”主人公さま”がよぉぉっ!!」


 慟哭と共に、無数のエネルギー弾が四方八方に打ち込まれる。

 それは完全に無差別で、苦し紛れの、もはや明確な目的すら失った破壊活動だった。


「皆さんっ、今こそ、筋肉の盾を!!」


「「「おうっ!」」」


 私が素早く指示を出すと、ダンベリア兵はグルメシア陣営を守るようにぐるりと取り囲む。

 そして筋肉を密着させて、光り輝くバリアとなってエネルギー弾をはじきとばした!


「「「ふんっ!!!」」」


「す、凄い、これが筋肉の力……」


 筋肉に拒否感のあったグルメリアス王も、その団結の力を目の当たりにして感嘆の声をあげる。


 その筋肉の壁の中に、カイル大佐の姿はなかった。

 彼は素早く飛び出して、向かい来るエネルギー弾を自前の筋肉の鎧で退けながら、真っ直ぐにビルドさんの元へと駆けていた。


「これまでだ、ビルド・マッソ!!!」


「ぐうっ、くそくそくそっ!!

 来るなっ! 来るなあああああっ!!!」


 悲鳴にも近いビルドさんの叫び声が響く。

 もはや、彼に対抗する力は何も残されていない。


「ふんっ!!!」


 カイル大佐の拳の一振りで、ビルドさんは大きく吹っ飛ぶ。

 そして落下点に大佐は素早く移動し、そのままビルドさんを拘束した。


 ビルドさんは抵抗しようとしたが、大佐の筋肉による拘束にかなうはずもない。


「くっ、ぐ、うううっ……!!!」


 言葉にならない唸り声をあげて身体をばたつかせる姿に、皆が複雑な視線を向けている。


「ビルド、どうして、こんなことを」

「元教祖さま……」


 彼のいつもの飄々とした態度からは想像もつかない取り乱し具合に、騙され場をかき乱された怒りよりも、困惑が勝っている人間が多かったようだ。


 ビルドさんはそんな私たちをずっと睨み続けていた。

 しかし、不意に、ぷつりと、糸が切れたように笑い出した。


「ふっ、ふふふふっ、ふふ、はは、あはははははっ!!」


 壊れたように笑う姿に、私たちは更に困惑を深める。

 彼を拘束している大佐も、少し戸惑っている様子だった。


「おい、どうした、ビルド!

 ……大丈夫なのか?」


「大丈夫? ぎゃははは、冗談だろ、筋肉大佐! 

 これが大丈夫に見えるってのか!?」


 ビルドさんの目は完全にすわっている。それでも口元にだけ、奇妙な笑みが張り付いていた。


「ただ、滑稽だなと思っただけだよ!

 お前たち全員、ただの転生者のおままごとの道具でしかないってのに!」


 ビルドさんの話し始めた言葉に、私はぞくりとした。

 彼がこれから何をしようとしているのか直感的に理解してしまい、止めようと反射的に立ち上がる。


「ビルドさん……!!」


 それでも当然、彼が話すのを止めることは無い。


「可哀そうになぁ! こんなに仲間だ絆だって言ってるのに!

 お前たち誰も、筋肉聖女から本当のことを聞いちゃいないんだろ?」


「何を言っている、ビルド。どういう意味だ!?」


「そりゃそうだよなぁ! 言えば、全部壊れちゃうもんなぁ!

 お前に都合のいい、お前だけの、お前が主人公の世界がよぉ!!」


「ち、違うっ、私、そんなつもりじゃ……!」


 否定しなくては。行動しなくては。

 そう思うのに立ち上がったまま、私は足が震えて動けない。


 この場の皆も、大佐も、ビルドさんの話に耳を傾けている。


 ――みんなの反応が怖い。怖くて、そちらを見ることすらできない。


「この世界は作り物なんだよ! 

 そこにいるコハルっていう転生者が作ったな!

 争いだって、解決策だって、こいつが目立てるように全部自作自演で作られたんだ!」


「ち、違います!! 私、私、そんなことしてないっ!!」


「したのと同じだろうが!!

 介入したのがお前の意識だろうと無意識だろうと、この世界を作っているのはお前だよ!!」


「……っ!!」


「違うって言うなら、なんでこいつらにそれを早く言わなかったんだ?

 言えば、自分中心の世界が崩れると思ったからじゃないのか?」


「違う……っ、違う!」


「ああ、そうか!!

 そもそも、こいつらに相談する価値なんてないと思っていたのか!

 そうだよなぁ、特にここにいる筋肉大佐はそうだよなぁ!」


「な、なにを……!?」


「このカイル大佐は、この世界でも一番の作り物……」


 ビルドさんがカイル大佐への言及を始めて、私はたまらずに彼の方へ駆けだした。

 駄目だ。それだけは、言わせちゃいけない。


「やめてっ!!!」


「お前に好意を持つように、作られた存在だもんなぁ!!」


 けれど、私が辿り着くより前に、核心的な言葉が告げられてしまった。


「……っ!!」


 私は唇をかみしめる。

 おそるおそる顔をあげて、カイル大佐へ視線を向ける。


 カイル大佐は見たことも無いような、愕然とした表情を浮かべていた。

 ビルドさんを拘束する手は緩めていないが、確実に彼の言葉は響いている様子だった。


 そうだ、大佐には異世界転生のことも少し告げている。

 そのことがよりビルドさんの話に信憑性を持たせているのだろう。


「あっ、あ、あああ……」



 ――カイル大佐に嫌われてしまった



 私は最低だ。せめて、自分でこの世界について、彼に告げておくべきだった。

 言うチャンスは何度だってあったのに、臆病に負けて言えなかった。


 それに、仲間の皆も裏切ってしまった。


 今まで散々、調子の良いことばかり言って、それが全部自作自演だったなんて。

 私に自作自演のつもりはないけれど、でも、そんなこと彼らには分からない。

 私にだって、この世界の真実の全ては分からない。


 ただ、ただひとつ、分かるのは……。



 ――みしり、みしり。



 ”この世界の天井”に、大きな大きな亀裂が走った。

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