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43話 和解! グルメシアとダンベリア!!

「は、ハバネロ、お前、どうしてここに」


 崩れ落ちた美食ロボの残骸の傍らで、グルメリアス王が声を震わせている。

 

「我が王、ご無事、ですか……」


 倒れ伏していた赤髪の男――ハバネロさんが、よろめきながら顔をあげる。


「我々は、精鋭軍を解任されましたが……。

 食事会の動向が気になり、密かに随行していたのです」


「解任? なんのことだ!? 

 お前たちは、私のことを見限ったのでは!?」


「まさか! 我々は我が王を尊敬し、お慕いしております。

 今も……ぐっ……!?」


 体を起こそうとしたハバネロさんが、大きく顔を顰める。

 どうやら、足に大きな怪我を負ったらしい。


「そんな……。では、何故!?」


「全て、ビルドの策略です。

 あの男は王に嘘を吐き、貴方様を追い詰め、操っていたのです」


「ビルドが!?」


「我が王は、我々の進言を、聞き入れてくださらなかった。

 尊敬ゆえに、強く意見することが出来なかったのは、我々の落ち度です。

 ですが畏れながら今一度、言わせてください」


 いつの間にかグルメリアス王とハバネロさんの周りには、元精鋭軍の人たちも含めて、グルメシア兵たちが集まって来た。

 私と大佐は顔を見合わせ、静かにその様子を見守る。


「私たちは、貴方様を見限ったことなど、ただの一度もありません。

 常に私たち民のことを一番に思ってくださっていると、分かっていたからです」


「だが……、だが、私の政策は失敗した。

 美食にこだわった結果、民は飢え、皆を不幸にしてしまった」


「――確かに、そうかもしれません」


「……っ」


 政策が失敗だったという言葉を肯定するハバネロさんに、グルメリアス王は表情を硬くする。

 しかしそれは怒りからではなく、恐怖からくる表情に見えた。


「それでも、……道は間違えても、貴方様は頑張り続けた。

 そのことを国民みんなが、知っています。

 だから慕い続けていた。

 そうでなくては、どうしてこうして皆が必死に、貴方様をお守りしようとするでしょう」


 グルメリアス王は暫くの間、押し黙り俯いた。

 それから、ぽつりぽつりと話し始める。


「私は……、私が王に就任したとき、皆が喜び祝ってくれた。

 そのときに振舞った最高級の美食を、誰もが幸せそうに口にしてくれた。

 だから、私は、それを追求すればもっと皆が……幸福になってくれると」


「我が王、私たちが喜んだのは……。

 あの時振舞われたのが、最高級の美食だったからではありません」


「……何っ!?」


「貴方様が、我々のことを思って、準備してくださったものだったから。

 そして何より、貴方様と共に楽しく、食事が出来たから」


「……!!」


 グルメリアス王の瞳が愕然と見開かれる。

 そうして、長い長い沈黙を挟んで、やがてその表情は憑き物が落ちたかのように穏やかになった。


「そうか。私は焦るあまり、大切なことを見誤っていたんだな。

 視野が狭まり、勝手に自分が孤独だと思い込んでいた。

 ……そして、私にただ同調してくれるビルドのことだけを信じてしまった」


 今までのことを思い返すように、グルメリアス王は目を閉じる。

 再び目を開くと、ハバネロさんを、他のグルメシアの国民たちを見つめた。


「どうか許してくれ」


 グルメリアス王の謝罪の言葉を、皆は受け入れた様子だった。

 彼を囲んで、誰もが安堵したような笑みを浮かべている。


 グルメシア側の会話が落ち着いたところで、私はそっと前に歩み出た。


「あの、グルメリアス王様……」


 ぎゅっとこぶしを握り締め、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 彼と対話できるタイミングは、きっとここしかない。


「先ほどは、本当に失礼いたしました。

 誓って、我が国はわざとあのような挑発を行ったのではありません。

 心から和平を望んでいました」


 私の後ろに、カイル大佐と、かけつけてきたバルク3世様も佇む。

 彼らは私の言葉を肯定するように、強く頷く。


「実は今回の食事会に出した料理の材料は、特別な水で育てたものなのです。

 それこそが、似た気候であるにもかかわらず、ダンベリアとグルメシアで育つ動植物に変化が生まれる原因。

 私たちはその源泉を手に入れたのです」


「つまり……、食料となる動植物を強く育てることが出来る水、ということか?」


「はい、そうです!

 そして我々は……、その水を、グルメシアにも提供する準備があります!」


「……!! なんと、それは……」


 グルメリアス王は驚きに声を震わせた後、顔を顰めた。


「しかし、私は酷い暴挙を犯してしまった。

 いまさら許されるはずが……」


「何を言っているんだい、グルメリアス王!

 ほら、周りを見てごらんよ!」


 バルク3世様から、場違いに明るい声が響く。

 その言葉に応じるようにグルメリアス王が周りを見渡してみると、そこには彼を心配そうに見つめる自国民の兵士や側近たちの姿があった。


「王よ、貴方様を止められなかった我々にも責任があります」

「もう一度、国を立て直していきましょう」

「我々はどこまでもお供します!」


「みんな……」


 グルメリアス王は周囲の言葉を受けて言葉を詰まらせた後、私たちに向かって深々と頭を下げた。


「これまでの数々の非礼や無礼、心から謝罪する。

 もしも出来ることなら、今からでも有効な関係を築き直していきたい。

 それがきっと、我が国民のもっとも幸せになる道だろう」


「勿論です!!」

「改めて宜しくね!」


 私とバルク3世様が返事をすると、誰からともなく自然と拍手が巻き起こる。

 絶望的な戦場は、温かな和解の場所へと変化した。


 バルク3世様が手を差し出し、グルメリアス王と固く握手が交わされる。


 ――しかし、


「ふざけるな……、ふざけるなぁッ!!!」


 この場でただひとり、この和解に納得していない者がいた。


 怒声の方へ顔を向けると、気絶していたはずのビルドさんがいつの間にか起き上がっている。

 そして怒りで目をぎらつかせながら、私たちを睨みつけていたのだ。

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