42話 決戦のマッスルダブルパンチ!!
「いけーっ、美食グルメロボ!! フォークミサイル発射ァ!!」
半分廃墟と化した大聖堂を、巨大なロボットが暴れ回っている。
ビルドさんはその傍らで、愉快そうに指示を出していた。
一方、グルメリアス王は前線からは退いたところで、兵士たち数名に守られながら事態を見守っている。
ちなみにダンベリア国王のバルク3世様も、サーロイン大臣に引き摺られて安全な場所へと避難していた。彼も戦いたがっていたが、怪我をしては大問題になるので仕方のない措置である。
「皆さーん!! とくに、新兵の皆さーん!!」
私と大佐、そしてモンスター軍団たちは、乱戦の中心へと駆け入っていく。
その最中、私は大きな声を張り上げた。
「ロボットは、体がとても重たいはずです。
だから、足場を不安定にしてバランスを崩しましょう!」
「「「……!!」」」
声の届いた兵士さんたちが、ハッとした表情を浮かべた。
そして、私の思っていることが通じたようだ。
「行くぞ、みんなっ!!」
「この特訓の成果を、元教祖様にも見て頂くのだ!」
「胡椒に負けるな! 目に染みても眼筋に力を籠めろぉ!!」
彼らはその場で輪になると、グルメロボの猛攻にも負けず、一糸乱れぬスクワットを開始した。
次第に微かに大地が震え始め、地響きが唸る。
「私もお手伝いします! はああぁ――!!」
私は気合を込めて、彼らの躍動する筋肉へと力を送った。
周囲が光りに満ちて、筋肉パワーが爆発する!
「「「いけーっ、スクワット大地震!!!」」」
天地が引っ繰り返る程の大きな揺れが引き起こされた。
「くそっ、なんだその攻撃はーっ!?」
忌々し気なビルドさんの叫び声が響く。
グルメロボはバランスをとることができず、ガシャアアンと大きな音をあげながら、大地へ包丁ブレードの腕をついた。
「まだまだ、俺たちがいるぞーっ!!」
「王様を守れ!」
「ビルド様を守れーっ!!」
グルメロボを守るように、地震の揺れにも負けず、続々とグルメシア兵士たちが飛び出してくる。
「なんのーっ!」
「こっちだって負けないぜ!」
「大佐と筋肉聖女さまを援護しろッ!!」
それに対抗するように、ダンベリアの熟練兵士さんたちが立ちふさがった。
「コハル、ここは彼らに任せて、行くぞ!!」
「はいっ! 筋肉スライムちゃん、バルキーモンキーたち、お願いっ!!」
私の掛け声に応じて、筋肉スライム達は融合して一枚の巨大なぽよぽよの布状に変化する。
そして、その端っこをバルキーモンキー達が全力で握り締めた。
「行きますよ!!」
「行くぞ!!」
「「ハイパー筋肉スライムトランポリン!!」」
私と大佐は手を繋いで、完成した巨大トランポリンへと勢いよく飛び乗る。
――ぽよよよよんっ!!
私たちは乱戦状態の兵士たちを飛び越えて、空高くへと舞い上がった!
「くそっ、それがどうした!!
筋肉大佐の拳は、この美食グルメロボには通用しないっ!」
ビルドさんがグルメロボへ魔力を送り込み、無理やりに立ち上がらせる。
接近する私たちを妨害するように、胴体の鍋から熱々のお湯が強烈に噴射された。
「させませんっ! ウインドショット!!」
私は風魔法で、逆にその熱湯をロボットへと打ち返した。
お湯がかかったグルメロボは、混乱したようにたたらをふむ。
「よし、チャンスだ。決めるぞ、コハル!!」
「はい、大佐っ!!」
私は大佐と繋いでいるのと反対の手の拳に力を込めた。
どんどん力がわいてくる。
皆の思いが、頑張りが、絆が、光になって集まってくる。
そして何より大佐と一緒なら、何だってできる、何にだってなれる気がする!!
(負けない!)
(負けない!!)
(負けないんだ!!!)
私たちは手を繋いだまま、グルメロボの胴体めがけて二人同時に拳を振り下ろす。
「「マッスルダブルパンチ!!!」」
――ドオオオォォン!!!
グルメロボの胴体の透明鍋が砕け散り、機動力を失ったことを示すかのように目元から光りが消えた。
「うわあああぁぁっ!?」
ビルドさんの絶叫がこだまする。
この巨大ロボを動かすため、魔術で感覚を共有していたのだろう。
悶絶しながらその場で気を失った。
「やった!!」
空中で体勢を崩した私は大佐に抱きかかえられ、無事に着地する。
「うむ、やったな!!」
大佐の表情にも満足げな笑みが浮かんでいる。
これは皆の筋肉でつかみ取った勝利だ!全員の力が、成し遂げたのだ!
私たちが勝利をかみしめようとしたそのとき、悲痛な声が響いた。
「駄目です、グルメリアス王!」
「ロボットが倒れます、近づいては危険です――!!」
ハッとして私が顔をあげると、離れた場所に居たはずのグルメリアス王がこちらに駆けてきている。
「いけない、いけないいけない、このままでは!
このロボットに全てをかけていたのに!
これでは、私のしてきたことの意味は――!!」
「グルメリアス王、下がってくださいッ!!」
私も必死に呼びかけるが、グルメロボが敗北して錯乱した様子のグルメリアス王には届かない。
そしてタイミングが悪いことに、機動力を失った美食グルメロボが、ぐらりとバランスを崩して倒れ始めた。
このままでは、丁度、グルメリアス王が下敷きになってしまう。
「駄目っ……!」
「く、間に合わん!!」
私と大佐も懸命に近づこうとするが、距離が遠すぎて間に合わない。
――グシャアアアンッ!!
無情にも、グルメロボは大きな砂煙を巻き上げながら地面へと崩れ落ちる。
「そっ、そん、な……」
私はがくりと膝をついた。
ビルドさんの策略を覆し、グルメロボに勝つことは望んでいたが、決してこんな結末は望んではいなかった。
グルメロボさえ対処できれば、もう一度、グルメリアス王と対話できるチャンスもあると思っていたのに。
「まて、コハル! よく見るんだ」
愕然とする私の意識を引き戻したのは、大佐の言葉だった。
「えっ……? あ、あれ、グルメリアス王――ご無事で!?」
砂煙が腫れてくると、どう考えても押し潰されたはずだったグルメリアス王の無事な姿が見えた。
そして、その傍らで王を庇うように倒れ伏している、もう一つの人影があったのだ。
「ハバネロさん!?」
私たちは、慌ててそちらへと駆け寄った。