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39話 和平食事会、開催です!!

 ビルドさんによる食糧庫襲撃事件が起こってから、私たちはより警戒を強めて過ごした。


 しかし幸いなことに、あの日以降は特に問題が起こることはなく、無事に和平食事会の日を迎えることになったのである。


「いよいよですね、大佐!」


 私たちは無事に会場への食料搬入作業を終えて、今は調理人さんたちが料理に励んでくれている。


「ああ。会場の警備は、軍が責任を持っておこなう。

 コハルは食事会に集中してくれ」


「はいっ!」


 この食事会は本来、主催側であるダンベリアの領地で行われるのが普通である。

 しかしグルメシアが指定してきた会場は、ダンベリアとの国境付近にあるグルメシア領の大聖堂だった。


 おそらく和平の申し出を完全には信用していないグルメリアス王が、ダンベリア領に入ることに抵抗があった為だろう。


(でも、どこであろうと開催できただけで十分!

 絶対に成功させてみせる!!) 


 今日は双方の国の王や側近たちが一堂に会して、ダンベリアの用意した食事を囲みながら話し合いが行われる予定だ。

 私は食事会の発案者兼「筋肉聖女見習い」として、振舞われる料理の説明などを行うことになっていた。


 だから大佐はいつもの軍服だが、私は王宮で用意された白いドレスをまとっている。

 大きな役割を任されていることを改めて実感し、背筋が伸びる思いだ。


(緊張するけど……、一生懸命準備したし、きっと大丈夫!)


 戦争なんてしなくても食糧難は解決できるし、皆が幸せになれるとグルメシア国王に伝えなくてはいけない。私は料理や食材について記した分厚いメモを読み返しつつ、気合を入れ直す。


 やがて、大聖堂の大広間には豪奢な長机が並べられ、その上を真っ白なテーブルクロスと食器たちが彩っていく。

 会の開始時間が迫ると、大佐は警備の指揮の為に大扉の付近へと移動した。


 各国の随行団も会場に入って着席していく。

 長テーブルの東側にダンベリア国、西側にグルメシア国の人間がずらりと並んだ。

 

 会場の雰囲気はどこかぎこちなく、微かな緊張感が漂っている。 


「グルメシア国王、ダンベリア国王、ご入場――!!」


 大きな声でアナウンスが響いた。

 東西の扉が開かれ、両国の王が姿を現す。


(あれがグルメリアス王!)


 私は初めて見る相手国の王の姿に、息を飲んだ。


(か、完全にやつれている……)


 元はふくよかな方だったと話を聞いていたが、その様子は見る影もなかった。


 グルメリアス王は、服装は豪華で威厳に満ちた雰囲気をまとっていた。

 しかし、その表情は思いつめたように暗く、目の下には隈がある。頬もこけていて、明らかに覇気を失っているように見えた。


 そしてその後ろには、当然のように随行するビルドさんの姿がある。

 彼はちらりと私へ視線を向けると、他に気づかれないよう密やかにニヤリと笑った。


(……!)


 私が無言で拳を握り締めていると、ダンベリア国王バルク3世様がにこやかに語り掛けた。


「グルメシア国王よ。本日は私たちが提案した和平の食事会に、ご足労いただき感謝する。

 両国が再び武を交えることなく、こうして一堂に会せたことを何よりの喜びとしたい」


 一方、グルメリアス王は固い表情のまま、その言葉へ応答する。


「……我らとて無益な戦を望むものではない。

 しかし、食糧難という現実を前に、貴国の真意を見極める必要があると考えている。

 本日、この場でその答えを確かめさせてもらおう」


 二人の王は長机の中央で対面するように、東西に別れて席に付く。

 その傍らには各国の側近が控えるように陣取り、私にもバルク3世様の隣の席が与えられていた。


「それではここに、グルメシア、ダンベリア、両国の和平食事会を開催します!」


 アナウンスが宣言すると、会場である大聖堂の広間は拍手に包まれた。

 表面上はみんな穏やかな態度だが、ピリピリとした空気感は隠し切れない。


「では今回の食事会の提案者であるダンベリア国、筋肉聖女見習いであるコハルさまに進行をお譲りします」


「……っ! はいっ」


 私は名前を呼ばれると、その場で立ち上がった。

 話し始める前に、小さく深呼吸する。


 遠くに扉の傍で警備しているカイル大佐の姿が見えた。

 彼は私を見守りながら小さく頷き、応援してくれているようだ。


 ――大丈夫、私ならできる。


 私は自分にそう言い聞かせて、皆さんに挨拶するように頭を下げる。


「ご紹介に預かりました、筋肉聖女見習いのコハルです。

 今日は皆さま、お集まりくださりありがとうございます。

 この食事会は他でもない、両国の国民全員の幸せの道を模索するためのものです」


 私の頭の中を、これまでの様々な思い出がよぎる。

  

 敵国兵士へ向けたキンバリー王女の無邪気な優しさ、グルメシア兵士さんたちの葛藤、バルク3世様の苦悩、協力してくれたダンベリア国民の皆さん、支えてくれたダンベリア兵の仲間たち、一緒に頑張った筋肉スライムやバルキーモンキーの皆。


 そして、ずっと寄り添ってくれたカイル大佐。


「今日の為に、私たちは心を込めて準備してきました。

 きっとご満足、ご納得して頂ける料理が出来たと思っています。

 どうかこの食事会を――楽しんでいただけたらと願っています!」


 グルメリアス王が少しだけ息を飲むのが見えた。


 今回の食事会を和平交渉の場としか考えていなかった彼にとって、楽しんで欲しいという私の言葉は意外だったのかもしれない。


 けれど、食事は本来、楽しいもののはずなのだ。

 それをどうか思い出して欲しいと、私は願う。


「ありがとう、コハル」


 バルク3世様の声を合図にするように、会場内がまた拍手に包まれる。

 先程までよりほんの少しだけ、空気が和らいだような気がした。


「では、最初に前菜を――!」


 その流れのまま、運んできて貰ったのは彩り鮮やかなサラダだった。

 華やかな見た目はグルメシア国の人たちのグルメ魂も刺激したようで、好感触な反応だ。


「マッスルスミレのサラダです。

 この花はとても巨大に成長し、花も茎も葉も全て食用になります。

 今回はそこに当国で採れた新鮮な野菜を加えて、栄養満点のサラダにしました!」


 毒見係が試食をした後、グルメリアス王が料理を口に運ぶ。


「ふむ」


 一口食べた後、小さな声で彼はぼそりと呟いた。


「悪くない」


「……!!」


 前向きな言葉に、私は心の中でガッツポーズをする。

 隣にいるバルク3世様へ視線を向ければ、私と思いは同じようで、小さく笑みを交わし合う。


 そして、この場の全員が前菜を食べ始めた。

 会場には穏やかな音楽が流れ、同国同士に限らず、他国間の人間にも会話が生まれ始める。


 バルク3世様も、柔らかな様子でグルメリアス王へと語りかけた。


「こうして顔を合わせるのは随分と久しぶりだね、グルメリアス王」


 それは外交的会話というよりは、友人に話しかけるような口ぶりだった。

 グルメリアス王は少し戸惑ったようだったが、それでも顔を上げて返事をする。


「貴国は相変わらずの様子だな。

 連れている兵士も、従者も、貴殿も料理も、筋肉だらけだ」


「ははは、ありがとう!」


「……褒めてはいない」


(ああ、バルク3世様……!!)


 私はその会話をはらはらと隣で見守っていたが、不意にグルメリアス王の視線がこちらへ向けられた。


「だが、今日の料理はなかなか良い」


「……!」


「むかし、大量の芋を送り付けられた時は……。

 私の信念を馬鹿にし、喧嘩を売られているのかと思ったが……」


 過去を思い出すように呟くグルメリアス王の言葉に、バルク3世様は不思議そうな顔をしている。


 そう、私は知っている。バルク3世様の行為は善意100%だ。

 しかし致命的に、両者の常識というか信条がすれ違っているのだ。


「だが、今回の料理は良い。

 初めて、貴国からの歩み寄りを感じた」


「あっ、ありがとうございます!!」


 少しだけグルメリアス王が心を開いてくれた気がして、私も嬉しくなる。


「そうそう。コハルは凄いんだよ。

 筋肉料理しか知らない私たちを先導して、メニューを考えてくれたんだ」


「ほう、筋肉聖女見習い殿が、この料理を……」


「はい! ですが、皆さんの大きな協力もあってこそです。

 続く料理も、全て自信作です。是非、楽しみにしていてください!」


 会話を弾ませる私たちを後目に、ビルドさんはグルメリアス王の隣で無言で食事をおこなっていた。

 話に割り込んだりも出来るはずだが、それすらせずにただ黙っているだけだ。


(なんでだろう、何か、嫌な予感が……)


 あまりに余裕とも言えるその態度に不安が生まれるが、立ち止まってはいられない。

 

「次は、アイアン芋のポタージュスープです。

 栄養も満腹感も美食も、全て兼ね備えた調理法を追求してみました――!」


 私は次の料理を紹介する。


 過去に問題となったアイアン芋を使ったスープにグルメリアス王の表情が一瞬曇ったが、その見た目と味に評価を改めてくれたようだ。


 こうして食事会は予定通り、否、予定以上に順調に進み、会場は次第に温かな雰囲気に包まれ始めたのだった。

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― 新着の感想 ―
心配なのは大佐の服がいつビリビリになってしまうのか!?かなぁ… 大きな心配事も筋肉聖女様と大佐ならどうにかなる!という安心感があるから読み進められます!
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