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38話 希望のマッスルパンチ!!

 大切な食糧庫に巨大な炎の矢が迫る。

 食い止めようと飛び出したが間に合いそうにない絶望の中、私の視界に飛び込んできたのは――


「カイル大佐――っ!!」


 周囲の木々をなぎ倒す勢いで、此方へと駆けてくるカイル大佐の姿だった。


「諦めるな、コハル!!」


 その言葉に勇気が、力がわいてくる。


「筋肉の強さは、心の強さ! みんな、コハルへ力を送るんだ!!」

「「「おーっ!!」」」


 カイル大佐の号令で、皆が私に気合を送ってくれる。

 

(頑張れ――!)

(筋肉聖女よ、負けないでっ…!)


 聞こえる……、筋肉の声が、聞こえる……!!


「うわあああああっ!!!」


「何っ、何だあの力は……!!」


 ビルドさんの叫び声は、激しく巻き起こる風による轟音でかき消される。

 

「大佐直伝、マッスルパンチ!!」


 私は、炎の矢に届かない右腕を振りぬいた。

 そこから激しい衝撃波が発生し、炎の矢を吹き飛ばす。


「やったー!!」


 食糧庫が守られたことに、ダンベリア兵から大きな歓声が上がる。

 グルメシア兵も予想外の展開に狼狽え、どう動けば良いのか分からずにいるようだ。


 折角の好機を奪われたビルドさんは、その場にがっくりと膝を付いた。


「くそっ! 何故だ!!

 そもそも、どうしてあの筋肉バカが此処に――!!」


「やはりこいつはお前の差し金か!」


 忌々し気に顔を歪めるビルドさんへ声をかけたのは、気絶したゴリーノさんを抱えた赤い髪の男……元グルメシア精鋭軍リーダーのハバネロさんだ。


「んなっ!? 貴様がどうしてここに!」


「お喋りは後だ!!」


 二人の会話に割り込むように、到着したカイル大佐が拳を振りぬく。


「ふんっ!!!」


 本家のマッスルパンチはやはり強力だった。

 拳が直撃したビルドさんは垂直に空へと吹っ飛び、10秒くらいして戻って来て地面に激突した。痛そうだ。

 

 そして、そのパンチの余波による衝撃波で残りのグルメシア兵もバタバタと倒れて気絶していった。

 

 こうして、食糧庫の攻防は、ダンベリアの勝利で終結した。


「あっ……と、とりあえず、捕獲しましょう!

 これ以上、暴れられると困りますので!」


 私はハッと我に返ると、ダンベリア兵の皆さんにお願いする。

 皆が頷いて作業に入ってくれるのを確認して、大佐とハバネロさんの元へ駆け寄った。


「大佐っ!! 戻って来てくれたんですね!

 ハバネロさんも、どうして!?」


「大事な時に留守にしていてすまない。

 町のいたる所に”美少年写真集”を不法投棄している輩がいると知らせがあってな」


「それは確かに、とんでもない騒ぎでしたね!?」


「まさか、これが私を引き付けるための敵の罠だったとは……」


「でも、帰ってきてくださったので、食糧も守れました!

 それに私たちも、頑張ったんですよ!」


 ダンベリア兵の皆さんにもそう呼びかけると、皆、達成感に満ちた顔で同意の声をあげてくれる。


「ああ。私は君たち仲間のことを誇りに思うぞ!」


「えへへ」


「実は罠だとすぐに気づいてこちらに戻って来れたのは、彼のおかげなんだ」


 大佐にそう呼びかけられて、ハバネロさんは苦笑を浮かべた。


「まあ、ビルドの奴とその側近が怪しい動きをしていたからな。

 調べていたら、この食糧庫襲撃計画に気づいたって訳だ」


「私たちを助けてくれたんですね、ありがとうございます!!」


 ビルドさんの動きを気に掛けるとハバネロさんは言っていたが、まさかここまで本当に協力してくれるとは。

 感謝の気持ちでいっぱいになって、私は頭を深く下げる。


「やめろって、そんなんじゃない。

 俺はあくまで、自分の国の為になることをしているんだ。

 今回の襲撃計画は、ビルドの独断でおこなわれている。

 グルメリアス様があくまで和平を望まれていることに、変わりはないからな」


 私のお礼に少しだけ照れくさそうにした後、ハバネロさんは、ぎゅうぎゅうに縛り上げられたビルドさんを睨みつける。


「この暴挙は国のメンツを潰し、我が王の意思に背くものだ!

 国へ帰って、グルメリアス様に報告するからな。

 これでお前も終わりだ!!」


 縛られたビルドさんは面白くなさそうにずっと顔を背けていたが、やがてニヤリと笑うと、ハバネロさんへ視線を向けた。


「くっくっく。馬鹿め。

 既に精鋭軍をクビになったお前の言葉など、王が聞くものか!

 生憎、王は俺を信頼しているんでなぁ!」


「なんだと!? これだけ証拠があるのに――!」


「良いぜ? それでことを荒立てても。

 そうするとどのみち、和平食事会どころじゃなくなるだろうがな!!」


「……っ!!」


「今のグルメリアス王は疑心暗鬼だ。

 不信感を少しでも覚えれば、和平なんてありえないだろう。

 逆に、俺がダンベリアに突然襲撃されたって報告したって良いんだぜ?」


「そんな滅茶苦茶な!」


「――まあ良いさ。和平食事会は、予定通り開いてやるよ」


 ビルドさんは不敵な笑みを浮かべると、真っ直ぐに私を見つめる。


「お手並み拝見と行こうか! ”筋肉聖女”さま!!」


 そして高笑いを浮かべながら、その場から消え去った。

 あとには彼を縛っていたはずの縄だけが残されていた。


「転移魔法……!!」


 私が愕然として辺りを見渡すと、他のグルメシア兵士たちも全員この場から消え去っていた。


「に、逃げられたっ」


「いや、行かせてやれれば良い。

 確かにビルドの言う通り、ここで問題を大きくするのは我々にも利がない」


 大佐が冷静にそう告げて、小さく息を吐く。


「食事会が、おそらくグルメリアス王に会える唯一の機会だ。

 いまはそこへ集中しよう」


「わ、わかりましたっ。そうですね!

 食材は全部、無事ですし、きっと説得してみせましょう!」


 気を取り直していた私たちに、ハバネロさんが声をかける。


「なあ、そのことなんだが」


「どうしましたか? 何か、気になることでも?」


「俺もはっきりとした情報はつかめていないんだが……。

 どうもビルドは、この食糧庫襲撃計画以外にもこそこそ何か動いているらしい」


「まだ秘密の計画があるんでしょうか……」


「分からないが、あの口ぶりだと、食事会でもなにか仕掛けてくるかもしれない」


「まあ、それは間違いないだろうな」


「ううっ。食事会当日は、特に気が抜けませんね!」


「俺たちも出来る限りのことはしたいが、おそらく会場には入れない。

 不本意ではあるが、お前たちの手腕に期待している」


 ハバネロさんの真摯な言葉に、私の背筋が自然と伸びる。


「……! 分かりました、任せてくださいっ。ね、大佐!」


「ああ。任せておけ!」


 この和平食事会の成功は、ダンベリア国、グルメシア国、双方を救うことになるのだ。


 ハバネロさんを見送った後、私は食糧庫前の戦闘の後片付けをしながら、何度も何度もイメージトレーニングを重ねるのだった。


 そして、和平食事会当日が訪れる――。

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