37話 炎の矢の絶望!
和平食事会のために準備された食糧庫をめぐって、私たちダンベリア兵と、ビルドさん率いるグルメシア兵は対峙している。
すでに乱戦状態と化していた戦場で、私は叫んだ。
「皆さん、私たちの目的は食糧庫の防衛です!
全員で協力して、筋肉の盾を――!!」
「わかった!!」
「任せろ!」
「筋肉が最強の防具だと見せつけてやりましょう!」
私は、国王様の護衛任務のときにも使用した技を提案する。
ダンベリア兵の仲間たちはそれに頷き、ガッチリと筋肉を寄せ合いスクラムを組んだ。
「大佐の役割は、私が果たします!」
筋肉の盾の中心に位置する私は、気合を入れて力をこめる。
いまだに筋肉聖女としての実感は完全ではないけれど、力の使い方は少しずつ覚えてきた。
とにかく強い思いが、皆の筋肉を強くしてくれる気がする。
だから私は、ひたすらに願う。
全ての筋肉が輝き、ハッピーエンドに導いてくれることを!
「筋肉は裏切らない! 守るは筋、砕けぬは肉!!
いきますよ、皆さん――筋肉の盾!!!」
「「「「「ふんっ!!」」」」」
まばゆい光が私たちを包み込み、食糧庫を守るように輝くバリアが発生した。
グルメシア兵たちはその圧倒的な筋肉パワーに狼狽したらしい。
多くの者は圧倒され、その場から動くことすら出来なくなる。
何人かは果敢にそれでも攻撃をくわえようとするが、筋肉の盾に届くことすらなく投擲物は消滅した。
「ぐぁっ!? なんだ、この暑苦しい光景は!
ええい、おまえたち怯むな! こんなもんに負けるんじゃない!!」
指揮を執っているビルドさんは怒鳴り声をあげると、美少年パワーを全開にして、鮮烈な光を発生させて対抗してきた。
「うわああっ、目が、目があっ!?」
「ああ、あの不眠の夜を思い出す……!」
「なんだか懐かしい感じがします、元教祖様ぁ!!」
単純な眩しさに目を焼かれる者。
美少年写真集での不眠のトラウマを呼び起された者。
かつての聖バーベル教会の日々を思い出し感傷にひたる者。
様々な方向で、ビルドさんの攻撃は、ダンベリア兵の集中力を削いでいく。
「駄目です、皆さん、集中してください!!」
私は必死に呼びかけるが、筋肉の盾の光が次第に弱まっていく。
「今だ、いけえええっ!!」
ビルドさんの突撃の合図で、我に返ったグルメシア兵たちが次々に向かってくる。
彼らは従来の鍋やフライパンの投擲攻撃に加えて、電撃魔法や炎魔法をまとわせたナイフやフォークも飛ばし始めた。
きっと、これもビルドさんの入れ知恵だ。
「ぐぬっ、しびれる……! これは筋肉に効く!!」
「この炎もなかなかの熱さだ!!」
防御力の弱まった筋肉の盾は完全に敵の攻撃を防ぐことが出来ず、次第にダンベリア兵もダメージを負っていく。
「皆さん、準備で頑張ったことを思い出してくださいっ。
私たちは負けない、負けない――!!」
私自身も最前線で攻撃を受けながら、力の限り皆を鼓舞する。
この和平食事会の準備をする中で、色んな事があった。沢山の人に協力して貰った。もっともっとこの世界を好きになった。
こんなところで、それを終わらせたくない!
「そうだ、このくらいの刺激、丁度いいトレーニングだぜ!」
「気合を入れるぞ、お前達!」
「聖女さまを信じろ!!」
「みんな!!」
ダンベリア兵の士気が戻ってくる。
再び筋肉の盾は輝きを増し、戦場は一進一退の激しい攻防戦となる。
しかし混迷を極める戦場の中、指揮に徹していたビルドさんは、こちらの筋肉の盾の揺らぎを見逃さなかった。
「くくくっ、鍛錬不足の奴がいるようだな!!」
それはグルメシア兵の攻撃で、一瞬足をよろめかせたダンベリアの新兵だった。
僅かに弱まった筋肉の盾の輝きの隙間を狙って、ビルドさんから強力な炎の矢が放たれる。
「食事会用の食糧なんて、全部燃えてしまえ!
それで終いだ!!」
ビルドさんの高笑いが響く。
私がその事態に気づいた時にはすでに炎の矢は宙を舞っていた。
「あっ、だ、駄目――!!」
その攻撃は真っ直ぐに食糧庫の壁に向かっていた。
着弾すれば、確実に甚大な被害が発生する。
私は我を忘れて駆けだし、その炎の矢へ腕を伸ばす。
けれど、届かない。
絶望に目の前が真っ暗になった、その時だった。
「諦めるな、コハル!!」
私は、その声を聞いた。