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36話 ピンチ!? 食糧庫襲撃!

「それにしても急な決定でしたね……!」


 王宮から伝えられた和平食事会の開催日は、なんと連絡から1週間後だった。

 あまりに突然の決定に驚いたが、どうやらこれはグルメシア側からの希望らしい。


「ビルドがグルメシアに入り込んでいるなら、これは食事会を準備不足で失敗させようという策略かもしれないな」


 冷静に分析するカイル大佐の言葉に、私はふふんと胸を張る。


「もしそうだとしても、ビルドさんの思い通りにはなりませんよ!

 皆さんのおかげで、食事会の用意はばっちりですから!」


 私の言葉に、大佐は力強く頷く。


「ああ、必ず成功させよう!

 万が一に備えて、食糧庫の警備も強化しないとな」


「はいっ!」


 こうして軍の管轄の広場の一角に食糧庫が設けられ、食事会当日まで、ダンベリア兵が厳重に管理することになったのである。


◇ ◇ ◇


 食事会を数日後に控えた夜、私は料理の仕込みの為に、食糧庫へ材料を取りに向かっていた。

 

「お疲れ様です!」


「筋肉聖女さま、こんばんは!」

「今日も平和だぜ」


 入口に数名いる見張りの兵士さんに挨拶をする。


 万が一に備えて食糧庫の警戒態勢を強めたものの、彼らの言葉通り、食糧庫はここ数日、特に何事もなく平和だった。


「よーし、私は料理に集中しよう!

 下味を付けておくのは……」


 広い食糧庫の中には、野菜や果物、処理された肉や魚が揃っている。

 気合を入れ直した私が食材を集めていると、外から叫び声が聞こえてきた。


「誰かーっ!! 敵襲、敵襲!!」


「……っ!?」


 私は手にしていた野菜を置いて、跳ねるように駆けていく。

 食糧庫の裏口から外に出ると、倒れていた見張りの軍人さんの姿があった。


「大丈夫ですか!? あっ……!」


 彼を助け起こしながら顔をあげると、他に配置されていた軍人さん達も倒れているのが見える。


「なんてことを……まさか!!」


 食糧庫の入口の方から、怒声交じりの大きなざわめきが響く。

 私は倒れている軍人さんを寝かせ直すと、そのまま喧噪の方へと走っていった。


 騒ぎの中心まで辿り着いた私の目に飛び込んできたのは、ダンベリア兵とグルメシア兵、十数人の乱戦状態だ。


 そしてグルメシア側の指揮を取っていたのは――


「やっぱりあなたですか、ビルドさん!!」


「くくくっ、きたか、転生者!! 今は筋肉聖女と呼んだ方が良いか?」


「ふざけないでくださいっ。どうしてこんなことを!!」


「はっ! 決まってるだろ? 

 お前の思い通りに、和平なんて結ばせるか!

 食事会をぶち壊してやるんだよ!!」


 グルメシアのマントをまとったビルドさんが、号令をかけるようにばっと手を前へ振りかざす。


「行けっ、グルメシア美食精鋭軍!

 我らの美食を汚す、愚かなダンベリアに制裁を与えるのだ!!

 このままでは、我らの王が邪悪な筋肉思想に乗っ取られてしまうぞ!!」


「はい、ビルド様!」

「グルメリアス様をお守りするのだ……!」

「美食こそが正義!!」


「だ、だめだ、あの人たち、完全にビルドさんの言いなりに!」


 ビルドさんはどうやら、グルメシアで過激な美食思考を浸透させ、その最も忠実な信者を”美食精鋭軍”としているようだった。

 かつて、聖バーベル教会も作り上げた彼にとって、この世界の人々を言葉で操るのは難しくないことなのだろう。


「皆さん、私たち、本当に和平を望んでいて!」


「問答無用っ!!」


「きゃあっ!?」


 グルメシア兵士さんに説得を試みるが、それより前に鍋とフライパンが飛んできた。

 全然、話を聞いて貰えない。


「駄目だ、筋肉聖女さま! 話せる状態じゃない!」


 仲間のダンベリア兵士さんが叫ぶ。


「なんとか我々で食糧庫を守らないと!

 今夜はカイル大佐がいないんです、急な呼び出しとかで――」


「なんですって!?」


 絶望的な情報を受けた私が顔をあげると、ビルドさんが不敵に笑っている。


「くくくっ、頼みの大佐もいなくて、残念だったなぁ!」


「ま、まさか、それもあなたが!?」


「ゴリーノに町で騒ぎを起こさせたんだ。

 あの筋肉大佐が呼び出されるようにな!!」


「ゴリーノ……って、あの、聖バーベル教会の司祭さん!?

 新兵の中にいないと思っていましたけど、ビルドさんと一緒だったんですね!」


「そうだ! 何故かあいつだけはついてきた!

 多分、何も考えてないだけだがな!!」


 そうして、ビルドさんは忌々し気に表情を歪める。


「それに比べて他の奴らは、ほいほい聖バーベル教会を抜けやがって!!

 おいっ、そこの貴様!! 覚えているぞ、元メンバーだろうが!!」


 ビルドさんがダンベリア兵の一人を指さすと、それに気づいた当人がマッスルポーズで敬礼した。

 おそらく、聖バーベル教会時代の刷り込みだろう。


「お久しぶりです、ビルド様!

 俺は筋肉への信仰を忘れてはいませんよ!

 さあ、こんなことはもうやめて、一緒にあなた様もダンベリア兵に入隊しましょう!!」


「するかーっ!!!」


「ああっ!!」


 怒りに任せたビルドさんの魔法で、彼は吹っ飛ばされる。


「とにかく!! 

 この食糧庫を潰して、食事会をお前らの不手際で終わらせてやるぜ!

 グルメリアス王の不信感を煽れば、和平の道は消える!!」


「そんなこと、させませんよ!

 仕方がないっ。

 皆さん、私たちだけで食糧庫を守りましょう!!」


 私たち二人の声に、双方の国の兵士たちが反応して「おー!」と大きな声を上げる。


 こうして深夜の食糧庫で、壮絶な攻防戦が始まったのだ。

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