29話 国王様にご報告です!
私のベッドの周りには、バルク3世様、サーロイン大臣、カイル大佐、キンバリー王女様、侍女の皆さん、筋肉スライム達、バルキーモンキー達がずらっと並んでいる。
「……お、多くないですか!?」
「いやぁ、みんなコハルの話を聞きたがってねぇ」
「スライム達やバルキーモンキー達が王城に入るのは、大丈夫だったんです……?」
「良い筋肉だったからね! 私が許可したよ!」
バルク3世様が、さわやかな笑顔でそう言った。国王様が許したのなら、まあ良いか……。
「コハルおねえちゃん、お話、聞かせて聞かせてー!!」
キンバリー王女様が、ベッドの傍まで駆け寄ってくる。
私はその愛らしい姿に癒されつつ、ゆっくりと昨夜の出来事を話し始めた。
――プロテインの滝の存在を知り、南の森へ出かけたこと
――無事に目的地にたどり着いたが、襲撃を受けたこと
――ピンチに陥ったが、突然不思議な力がみなぎってきて勝利できたこと
「なるほど。コハルの祈りに応えて、スライム達の筋肉がパワーアップしたということかな?」
話を聞いたビルド3世様は、興味深そうに私に問いかける。
「どうなんでしょうか。と、とにかく、あのときは必死で」
そういえばあのとき、何かとんでもないことが起こっていたような……。
「あっ!!」
「……?」
「そうだ、あのとき!
スライムちゃん達の、筋肉の声が聞こえてきたような……!」
「なにっ!?」
驚きと共に、大佐が身を乗り出す。
「それは本当か、コハル!?」
「は、はいっ!
もうフラフラだったので、幻聴の可能性もあるんですが」
「筋肉は何と言っていたんだい?」
「それは――、『躍動したい』『輝きたい』と……!」
『ぷよよっ!』
私の言葉を肯定するように、筋肉スライム達はぽよぽよ飛び跳ねる。
「ふーむ。なかなか信憑性のある台詞だな……」
「そ、そうなんですか??」
「いかにも、筋肉が言いそうな言葉だからね!」
「……??」
なんとも奥の深い筋肉の世界だ。しかし、この国屈指のエリートマッスルであるバルク3世様とカイル大佐がそう言うのなら、そうなのだろう。……多分。
「今も筋肉の声は聞こえるの?」
「いえ、あの一度きりで、今は全く」
「そうか。何か特別な時にだけ、力が発揮されるのかもしれないね」
「だが、コハルの力が本物であることは間違いない。
私もこの目で見たからな」
「大佐……」
カイル大佐が保証してくれると、何だか力がわいてくる気がする。
この世界を守るためなら、この際筋肉聖女の力だって何だって、全部使って頑張りたいと思うのだ。
そしてそこまで話して、私は探索の本来の目的を思い出した。
「あっ、そういえば、プロテインの滝!!
折角見つけたのに何も調べられなかった……!」
「それならば問題ない。あの滝の水は持ち帰ってある。
これから王城の研究室で分析する予定だ」
「良かった!! でも、よく持って帰れましたね」
「ああ。まず、スライム達が平べったく伸びて繋がり合い、大きな袋を作ったんだ」
「そんな裏技が……!」
「その中に滝の水を入れて、バルキーモンキーたちが水漏れの箇所を手でふさいだ」
「な、成程……?」
「そして、そのモンキーたちが張り付いた袋を、私が左手で担いで持ち帰ったのだ」
「うわぁ、見たかったなぁ、そのとんでもない光景……」
「ちなみに、右手にはコハルを担いでいた」
「まさかのお隣さん! ご迷惑おかけしました……!!」
「あの滝の水にパワーアップの秘密があるかもしれないからね。
何かわかったら、早めに伝えるようにするよ」
バルク3世様の言葉に私は頷く。
「ありがとうございます。
ただ、単純にあの水がパワーアップの鍵なのかは分からないですね。
あの滝の中には、最初にビルドさんも落ちていましたし……」
しかし、彼がムキムキ美少年に進化する様子はなかった。
「ああ、コハルを襲撃してきた相手だね。ビルド・マッソと言ったかな」
「はい。聖バーベル教会の教祖で……。
あ、いえ、もうその宗教組織は存在しないらしいんですが……」
「そうだろうな。元信者たちが、私の軍に集団で志願してきたからな」
「やっぱり!」
「受け入れたの? カイル」
「うむ! 私の軍隊は、来る筋肉拒まずだ!」
「流石です、大佐!」
「しかし新人研修の途中で、抜けてきてしまったな」
「あっ、す、すみません、ご迷惑を……!」
「いや、構わない。彼らにはスクワットマラソンを命じておいた」
「スクワットとマラソンって、両立するんですね!」
窓の外を見れば、日が高く昇ろうとしていた。
私たちの会話を聞いていたバルク3世様が、微笑みながら口を開く。
「長く引き留めてしまったね。軍の仕事もあるだろうし、そろそろ戻ると良いよ。
コハルはもう少し休んでいっても良いけど、どうする?」
「ありがとうございます。
おかげさまで、もう歩けそうですし、私も帰ります!」
私がそう告げると、いままで大人しく話を聞いていたキンバリー王女様と侍女さんが、しょんぼりとしながら話しかけてきた。
「コハルおねえちゃん、いっちゃうのー?」
「聖女さま……もっとお話が聞きたかったのに、残念です」
「そう言って貰えて嬉しいです!
でも、軍のお仕事も、頑張りたいので……!」
「わかったー! また遊んでねっ!」
「流石です、聖女さま!
新作グッズ、お土産に持って帰ってくださいね!!」
こうして彼らと別れを告げて、私は大佐と一緒に城門の外へ出る。
「ところで、大佐!!」
「うむ、なんだ、コハル?」
「――彼らは、どうしましょう!?」
私たちの後ろには、ずらずらと筋肉スライムの群れと、バルキーモンキーの群れが並んでいる。
「どうやら付いてくるつもりらしいな!」
「ええっ!? でも、全員は馬車に乗れませんよ?」
「ならば、解決方法は一つしかあるまい!」
「まさか――」
「ふんっ!」
久しぶりに、カイル大佐の上半身の服が弾け飛んだ。ああ、実家のような安心感。
「軍の本拠地まで、マラソンだ!
新人研修にみんなで合流するぞ……!!」
「はぁい!」
『ぷるるっ……!』
『ウホホホォーッ!!』
こうして私たちは街道を走り始める。きっと午後には、軍まで辿り着くだろう!