28話 予想外の事態です!!
ビルドさんがいなくなったプロテインの滝は、すっかり静けさと穏やかさを取り戻した。
「や、やった! 勝った……!」
私は、へなへなとその場に座り込む。
『ぷよよっ!』
スライム大佐も分裂して、もとの筋肉スライム軍団へと戻っていく。
彼らは勝利を祝うように、私の周りでぽよぽよ飛び跳ねた。
「みんなっ、無事でよかった!
助けてくれて、ありがとう!!」
状況の整理はひとまず脇に置いて喜び合う私たちの背後から、声が響く。
「見事だ、コハル――」
「……??」
振り返ると、そこには本物のカイル大佐がいた。
「ふぇっ!? た、た、大佐、なんで此処に……!?」
「君の帰りが遅いから、王立図書館へ迎えに行ったんだが……。
軍に戻らず、一人で南の森に向かったという情報を得たのでな」
「探しに来てくれたんですか?」
「ああ。森の中で彼らに出会い、道案内して貰ったのだ」
「彼ら??」
首を傾げていると、バルキーモンキーたちが木陰から姿を現した。
「ひょええっ!?」
私は思わず身構えたが、モンキーたちはカイル大佐の傍で大人しく筋トレに励んでいる。
その姿を見て、大佐は感慨深そうに頷いた。
「この者たちは、なかなかいい筋肉を持っているな!」
『ウホオオォーッ!!』
「き、筋肉でコミュニケーションが成立している……」
その様子に嫉妬したのか、筋肉スライムたちは構って欲しそうに大佐の周りを飛び跳ねる。
『ぽよよっ!』
「勿論! 我が弟子たちも、素晴らしい活躍だったぞ!!」
『ぽよぽよ!』
スライムたちは、褒められて満足したようだ。
「それにしても、大佐、いつからいらっしゃったんですか?
全然、気が付きませんでした……!」
「今来たところだ。
助けに入ろうと思ったら、ビルドが吹き飛ばされていったからな」
「そうだったんですね!
でも、活躍が見て貰えてよかったね、スライムちゃんたち!」
私は筋肉スライムたちに微笑みかける。
「……」
そして、あることに気が付いた。
「ええと、大佐は、今来たところなんですよね?」
「ああ、そうだ」
「筋肉スライムちゃんたちが、ビルドさんを吹き飛ばすところは見たんですよね?」
「素晴らしい筋肉のこもった一撃だった!」
「あの、その前の……スライムたちが、スライム大佐に変身するところは見ましたか?」
「うむ。筋トレの成果で、あんなことが出来るとはな!」
「では、更にその前の私の言葉は聞きましたか?」
「……」
カイル大佐は答えず、少しだけ視線をそらした。
「大佐?」
「……」
「聞いたんですね……?」
私は自分が言ったことを思い出した。
『……好きだから!』
『私は、今の世界のカイル大佐が大好きなんです!!』
「ふふふっ、……うふふ……」
私は遠い目をした。頭の中で大佐の顔がぐるぐる回って、心臓がバクバクして、息が詰まりそうで……。
――もう無理!
「ぴいっ」
そして、恥ずかしさと限界まで蓄積した疲労の為、その場で倒れて気絶した。
「コハルっ!? コハル――!!」
慌てるカイル大佐の声がぼんやりと聞こえた気がした。
◇ ◇ ◇
「んっ……」
私はふかふかのお布団の中で目を覚ました。
窓からはぼんやりと明るい日差しが差し込んでいる。
辺りをぼんやりと見渡すと、随分と綺麗で豪華な部屋のようだ。
「目が覚めたか、コハル」
声のした方へ顔を向ければ、ほっとしたような表情のカイル大佐が椅子に座っていた。
ずっと見守っていてくれたのだろうか。
「わっ、えっと、すみません! 私、倒れちゃったみたいで」
「それは構わないが、体はもういいのか?」
「はい! よく休んだおかげか、すっかり元気です」
「良かった」
大佐は短くそういうと、椅子から立ち上がる。
「では、皆を呼んで来る。君のことを随分と心配していたからな」
「皆……? あの、ここは?」
「ダンベリア王城だ。
コハルの見つけた滝についての報告もあったし、軍よりも近かったのでこちらで休ませて貰った」
「ひえっ!? お城だったんですか!」
「バルクも君の話を聞きたがっていた。
出来そうか?」
「国王様が!? 分かりました、大丈夫です!」
私はベッドから飛び起きようとしたが、大佐に押し戻された。
「まだ起きなくて良い。無理をしては後に響くからな。
休むこともトレーニングの一環だぞ!
ここに皆を連れてくるから、滝であったことを話してくれ」
「はっ、はい……!」
そうして大佐は、私を残して部屋を出て行ってしまった。
「……っ」
その背中を見送った後、私はいたたまれずに布団に包まってごろごろとしてしまった。
大佐、あまりに普通な様子だったな……。
私の告白なんて、聞いてなかったみたいに……。
なにも気にしていないのかな。
それとも、あえて気にしないような態度をとっているだけ?
「あああっ、もーう……!」
そんなことを考えている場合ではないのは理解している。
ビルドさんが襲撃してきたり、プロテインの滝があったり、筋肉聖女パワーが目覚めたっぽかったり、皆に話さなければいけないことも盛りだくさんだ。
だけど、それでも、気になるものは気になるのだ。
大佐は今、何を考えているんだろう……。
「はあ、いけないいけない。気合入れてっ!
とにかく、出来ることをやるっ!」
一通りもだもだし終えると、私は気合を入れ直す。そして、皆の到着を待ったのだった。