27話 決死の戦い!!
私が言い放った言葉に、ビルドさんは少しだけ押し黙った。
けれど、すぐに高笑いを始める。
「あっはっは! 既にそんなボロボロで、何が出来るって言うんだ! お得意の世界改変能力で、好き勝手してみるか?」
「あのね!!」
その台詞に被せるように、私は声を張り上げる。
「貴方は、世界は私の思い通りって言うけれど……。ぜんぜんっ、ぜーんぜんっ、そんなことないですからね!?」
頭の中がまとまらない。
それでも、思いだけはどんどん溢れてくる。
「そもそも、筋肉は好きですけど……。だからってこんな筋肉ワールドを作りたいと思ったことなんてないですし!!」
ぴくり、とビルドさんの眉が動いた。
「魔法だって、そんなに強くないし! 筋肉だって、私には沢山ある訳でもないし! 自分じゃ何もできなくて、迷惑ばっかりかけて……。それでも、大佐や、皆に、たくさんたくさん助けて貰って!!」
「黙れ……っ!!」
私の言葉を拒絶するように、ビルドさんが片手を振り上げた。
再び魔力が彼の手に集まっていき、周囲にビリリと電気を帯びた風が巻き起こっていく。
だけど、怯むわけにはいかない。
「何とかこの世界にしがみついて、生きてるの!! 楽しいけど、何も考えていない訳じゃないっ。悩むことだってある! 貴方には、おままごとに見えるかも、知れないけど――ッ」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!!!」
叫んだビルドさんから私へ向かって、電気を纏った鋭い刃のような風が無数に撃ち込まれる。
「……っ!!」
筋肉スライムたちが壁となって守ってくれた。
けれど、彼からの攻撃は止むことなく続けられる。
私は追撃を避けながら、必死に岩場へと這い上がった。
「ビルドさん!!」
彼を何とかして止めようと、その足元を狙って私はファイヤーボールを放つ。
だけど、あっさりと弾き返されてしまった。
「お前に僕の気持ちが分かるか!? 自分が世界の中心だと思って生きていたのに……。ある日突然、その居場所を奪われた僕の気持ちが分かるか!?」
「……っ、わかりません! 完全には、わかって、あげられませんけど……!!」
私は諦めずに魔法で攻撃を続ける。
残念ながら、技量の差は圧倒的だ。
それに私は彼からの魔力弾の直撃を受けて、既に体は限界に近い。
彼に与えるダメージより、こちらが追加で受けるダメージの方が明らかに多い。
けれど気力だけで声を張り上げる。
「目的がハッピーエンドを壊すことなんて、悲しすぎます!!」
ビルドさんの動きが、一瞬止まった。
私の想いが届いてくれたのだろうか。そう僅かに期待したが、間違いだった。
彼はくつくつと笑みを浮かべた。
「転生者の綺麗ごとには、うんざりだ!」
「そんなっ……きゃあっ!?」
私は隙をつかれて、不意打ちの魔力弾を受けて地面に叩きつけられる。
そのままビルドさんは、私の首元に風の刃を突き付けた。
「筋肉大佐という保護装置があるから、お前は暢気でいられるんだよ! それがなければ、このざまだ! どうだ、命乞いでもしてみるか?」
「たっ、大佐を、保護装置なんて言い方しないでください!!」
「ふん! 他にどう言うんだ!! あいつはお前にとっての、最強装備みたいなもんだろうが!」
「違いますっ! カイル大佐は、大事な人です!!」
「馬鹿が! あれはAIなんだよ、AI!! 心なんてない、ただの作り物だ!」
ビルドさんは脅すように刃を近づけながら、私にこの世界が、カイル大佐が、作り物なのだと認めさせようとする。
私はぎゅっと唇をかみしめると、真っ直ぐにビルドさんを見つめ返した。
「違うっ!!!!」
私の返答に、ビルドさんは明らかにイラついた表情を見せた。風の刃が私の皮膚に食い込む。
それでも、私は続ける。
「大佐は……、ちゃんと心を持っています! 分かるんです、分かる、きっとそう!」
「何を根拠に!!」
「……好きだから!」
ビルドさんの目が、驚いたように見開かれる。
私自身も、自分の言葉に驚いた。
だけど、そう。
やっとはっきりした。くよくよ難しく悩むことなんて、なかったんだ。
だって、何があったとしても、私は――
「私は、今の世界のカイル大佐が大好きなんです!!」
その瞬間、プロテインの滝つぼが光り輝き始める。
「なにっ!?」
ビルドさんの動揺した声が響く中、光の中から次々と、筋肉スライムたちが飛び出してきた。
攻撃を受けてダウンしていたはずなのに、元気そうに筋肉を、ぽよぽよつやつやと輝かせている。
『ぷよよっ!』
彼らは寄り集まり、積み重なっていき、巨大なカイル大佐の形になった。
「はぁっ!? なんじゃこりゃ……!?」
そのあまりの迫力に、ビルドさんは圧倒されてあとずさった。
刃から解放された私は起き上がると、巨大なスライムカイル大佐を見上げる。
「みんなっ……!!」
私自身、傷だらけでボロボロだったはずなのに、不思議と力がみなぎってくる感じがする。
それに、声が聞こえてくる気がした。
(躍動したい……!!)
(輝きたい……!!)
これはまさか、スライム大佐の筋肉の声!?
もう何が何だか分からないが、とにかくこのままやるしかない!
私は元気いっぱい、手を振り上げた。
「みんなっ、いっけー!!!」
『ぷよよーっ!!』
私の掛け声で、スライム大佐は光り輝き始め、ズンッ、ズンッ、とビルドさんへ近づき始める。
「いやいやいやいや!! まてっ、来るな、来るなああああっ!!」
――ドゴォッ!!
南の森の満月の空に、吹き飛ばされたビルドさんが消えていった。