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23話 調べ物と言えば図書館でしょう!

「ここが、ダンベリア王立図書館!」


 私は町の中心地にある、巨大な図書館にやってきていた。

 和平の食事会準備の為にも、筋肉聖女について考える為にも、とにかく沢山の知識が必要だと考えたからである。


「この入館証があれば、大丈夫だって聞いたけど……」


 ちなみに、今日は私一人での来館である。本当はカイル大佐も付き添ってくれる予定だったが、急用で軍に呼ばれてしまった。


 私も一緒に戻ると言ったのだが、「大丈夫だから調べ物に専念するように」とのお言葉を頂き、今に至るのだ。


「ようし、一人でも成果をあげるぞー! いざっ!」


 私は気合を入れ直して、図書館入り口のバーベル型アーチへと向かった。認証用らしい魔導パネルに入館証をかざしてみるが、扉は開くことなく、エラー音声が流れてくる。


『マッスル不足です』


「……????」


 とんでもない言葉が聞こえてきた気がするが、怯んではいられない。聞き間違えだと信じて、私は再度入館証をかざす。まず図書館に入らなければ、何も始まらない! 


『マッスル不足です』


「……」


 私は頭を抱えた。だめだ、幻聴じゃない。絶対にマッスル不足って言われた。もしかして、筋肉ムキムキでなくてはこの図書館は利用できないのだろうか。

 今から鍛えていては、入館許可が下りるのはいつになるのか……!

 

 困り果てていた私の背後から、唐突に声が響いた。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!! 図書館の使用は初めてかね?」


 その声に私は安堵した。口ぶりからして、図書館の関係者か、利用に慣れている人だろう。


「あ、はいっ! 実はここに来たのは初めてで――ひょえっ!?」


 入館の仕方を教えて貰おうと振り返った私の目に飛び込んできたのは、小柄な老人――が、自分の身長の数倍程の高さに積み上げられた本を、軽々と片手で運んでいる姿だった。


「わしは、ここの館長のチェストじゃ。……ややっ! もしやお主、噂の見習い筋肉聖女様かのう!」


「かっ、館長さんでしたか! ええと、そうです。私が、その筋肉聖女見習いです」


「わしの孫も、お主の大ファンでのう。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。筋肉聖女さまの人形を使って、毎日マッスルポーズの開発に励んでおるよ」


「ど、独特な遊び方! でも、応援ありがとうございます!」


「しかし、いくら見習い聖女様と言えど、この図書館の掟には従ってもらわねばならんのう……。そうでなくては、この扉を開ける訳にはいきませぬ」


「掟、ですか……!?」


 カイル大佐からは、図書館に特殊な決まりがあるなんて聞かされていなかった。とんでもない条件だったらどうしよう。私はごくりと息を飲む。


「王立図書館規則第一条!! 入館前には、腕立て伏せ100回、スクワット100回、腹筋100回すべし!!」


「多くないですか!?!?」


 チェスト館長からの堂々たる宣言に、思わず私は食い気味に反応してしまった。


「この王立図書館は、筋肉と知識の両立を目指しておりますからのう。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!」


「そ、それで、やたらと図書館の入口前で筋トレしている人が多かったんですね」


「彼らから話は聞かなかったのかのう?」


「いえ、この国の人は、大体どこでも筋トレしていますので……。単なる日常風景として見過ごしていました……」


「ごもっともじゃのう!」


 唖然としている私に、館長はにっこりと笑顔を向けた。


「さあ、見習い聖女さま。レッツ筋トレじゃ!」


「ひいっ! はい、分かりましたぁっ……!!」


◇ ◇ ◇


「ぐったり……」


 私は何度も休憩を挟みつつ、筋トレメニューをやりきった。この世界に来てから、少しは兵士の皆さんと一緒に鍛えていたので、グロッキー状態になりつつも何とか完遂することが出来たのだった。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、お疲れ様じゃったのう!」


 チェスト館長さんはその間、積み上げた本を手にしたまま涼しい顔をして、ひたすらスクワットをしていた。小柄でご高齢に見えるが、彼はかなりのエリートマッスルのようである……。


「ところで今日は、何か調べものかのう?」


「あっ、はい、そうです。この国の食材について……色々と詳しく調べてみようと思いまして」


「料理本なら2階じゃのう。筋肉レシピ本は大人気じゃて、大量に揃えておるぞぉ!」


「わあ、ちょっと気になる! でも今日の目的は少し違っていて……、筋肉レシピ以外についても調べたいんです」


「ふむ。それなら、かなり古い本になるが、食材図鑑が確か地下にあったかのう」


「……!! それ、凄く良いです! お借りすることは出来ますか?」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。それは見習い聖女さま次第じゃのう……」


「え、それは、どういう――」


「王立図書館規則第二条!! 貸し出し可能なのは、己が片手で高く持ち上げられる冊数まで!!」


「本で遊んじゃ駄目ですよ!!」


「本で遊んではおらんぞ。本で筋トレ、すなわち愛じゃ、愛」


(そうかなぁ……)


「ちなみに、規則はこの二つしかないのじゃ。あとは見習い聖女さま、図書館を楽しんでくだされ! ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!」


 それだけ言い残すと、館長さんはにこやかに立ち去って行った。


「ご、ご説明、ありがとうございましたー!」


 私は彼にお礼を告げると、早速、図書館の地下へと足を進めるのだった。

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