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21話 和平のカギは、食にあり!?

「あっはっはっはっは!」


 お茶会の会場にて、先程の騒動について説明したところ、バルク3世様は楽しそうに大笑いしていた。


「カイルは相変わらずだなぁ」


「相変わらず過ぎますよ……!」


 とりあえず、あっさり誤解は解けたので安心した。カイル大佐とバルク3世様は幼馴染ということもあり、上半身の服が弾け飛んだ件についてもすぐに納得して貰えたのだ。

 ……昔からこういう体質だったのだろうか。


 大佐は王城で着替えの燕尾服も準備してもらえたようで、改めて正装した状態で着席している。


「……」


 会話する私たち二人を前にして、大佐は少しだけ目を逸らして無言でいる。珍しく居た堪れないような表情をしているのを、少し可愛いと思ってしまった。


「さて、早速だけど本題に入ろうか! 

 先日の護衛任務、お疲れ様だったね。キンバリーがいなくなったときは心配したけど、コハルが付いていてくれて良かったよ」


「いえいえっ、任務ですから! お役に立てて光栄です」


「今日はそのお礼として、お茶会を用意したので楽しんでいって欲しい。

 あと、いくつか話したいこともあってね」


「グルメシア国の状況についてですか?」


「そう。キンバリーからも少し聞いたんだけど。

 改めて、君があの日に体験したことと、意見を聞きたいんだ、コハル」


「承知しました。まずですね――、」


 私はあの日の出来事を説明した。

 

 グルメシア兵に囲まれたが、王女様が飴玉を差し出して敵の戦意が失われたこと。

 その後、皆で料理を作って少し交流を持てたこと。

 彼らの食糧難はやはり深刻であること。

 グルメリアス王は美食信仰が深いが、国民からは慕われる存在であるらしいこと。


「あの、変な言い方かもしれませんが、皆さん、良い人に見えました。グルメリアス王も、そんなに悪い人ではないような気がします。

 だから、穏便な解決策を見つけたいと思うのですが……」


「なるほどね。美食に傾倒して、王族貴族だけ贅沢三昧――ということはなく、みんな平等に食糧を分配して、みんな平等に飢えていると……」


 頷きながら話をまとめるバルク3世様の言葉を聞いて、大佐が口を開く。


「それは政治ではない。為政者が共に苦難を引き受けたとしても、国民を飢えさせているという事実は変わらないだろう」


「ご、ごもっともです」


「やはり筋肉だ! 彼らに足りないのは筋肉だろう!!」


「ひえっ。気持ちは分かりますが、それではおそらく、こじれるだけかと……!」


「文化の違いっていうのは、根深い問題だからねぇ」


「それに、そもそも彼らが空腹で、話し合いが出来る状態ではなさそうなのも問題で――あっ!」


 再び燕尾服を弾き飛ばしそうな勢いの大佐を引き留めつつ、うんうん考え込んでいた私に、ふとアイデアがひらめいた。

 思い起こしたのは、グルメシア兵の皆さんと一緒に、輪になって筋肉プリンを食べたときの光景。


「お食事会を! 和平のためのお食事会を開くのはどうですか!?」


「食事会?」

「和平のため……どういうことだ?」


 私は政治について詳しいことは分からない。だから拙い意見かもしれないけれど、二人が真剣に耳を傾けてくれるので、精一杯の気持ちで応える。


「グルメシア国の皆さんは、美味しいお食事が好きなんです。ダンベリアが筋肉を愛しているのと同じように!

 だから話し合いのために、まず、我が国が美味しいご飯を用意して、グルメシアをご招待するんです」


「ダンベリアが料理を?」


「そう! それも、グルメシアの人も納得するような、美味しいお料理を!」


「しかしグルメシアが納得するような豪華な料理は、我が国にはあまりないぞ、コハル」


「豪華じゃなくていいんです。いえ、むしろ、材料は安くて沢山手に入る物が良いです。それでも、調理次第で美味しくなるし……。

 お腹いっぱいになれば幸せになれるって、グルメリアス王に思い出して貰うんですよ!」


「うーん、なかなか面白い提案だね」


「敵がそれで納得するだろうか。前に送った芋や豆は、送り返されてきたのだろう?」


 バルク3世様は乗り気なようだが、カイル大佐は私の提案に懐疑的な様子だった。


「そうですね。でも”美食”という相手の信条に歩み寄りを見せれば、以前とは違う結果になる可能性もあると思います!」


「……」


 難しい顔をして、カイル大佐は目を伏せてしまった。私は少しだけ狼狽える。

 大佐は軍事的に国を守らなくてはいけない立場だし、厳しい意見を持っていても当然だ。私の甘い考えで困惑させてしまったのだろうか。


 そんな私たちの様子を見て、バルク3世様が苦笑した。


「コハル、カイルは君を心配しているんだよ」


「へっ……?」


「以前に豆や芋が送り返されたと言っただろう? あのときは、私もかなり落ち込んでね」


「そうだったんですね……」


「カイルは、君に、そのときの私みたいになって欲しくないんだよ」


「……!」


 私は驚いて、カイル大佐を見上げた。彼は相変わらず複雑な表情を浮かべているが、バルク3世様の言葉を否定しない。だから、その推測は正しかったのだと感じた。


「た、大佐、私……」


 ぐっとこぶしを握り締める。それから彼の顔を、真っ直ぐに見つめ直した。


「私、出来ることがあるなら、やってみたいんです!

 甘いかもしれないけど、皆が幸せになれる世界が、よくて……。

 この世界を幸せにすることが、私の任務です!


 ――大事なのは、任務遂行への固い意志、でしょう?」


 私の言葉を聞いて、カイル大佐はゆっくりと組んでいた腕を解いた。そして、その瞳が私を見つめ返す。


「……コハル、君は軍人だ。君の任務は、この国を守ることだ」


「うっ……! 確かに」


「だが、私の部下だ。私には部下の夢や思いを、守る義務がある」


「大佐?」


「それに、全力で頑張る君の姿は――好ましい」


「……っ!!」


「出来る限りのことは、私もサポートしよう。

 ただし、和平が失敗した場合に備えて、軍事的な準備も怠らない。それで良いな?」


「はっ……、はいっ! はいっ!!

 ありがとうございます、大佐!!」


 私は嬉しすぎて、思わず椅子から立ち上がって、大佐へ直角にお辞儀をして感謝を示した。


「――ということで、良いか? バルク」


「ふふ、分かったよ。君たちがそう言うのなら、やってみよう。

 私の方で、何とか和平のための食事会が出来ないか、グルメシアに交渉を持ち掛けてみるね」


「あっ、ありがとうございます!」


 私はバルク3世様にも向き直り、再度、深々と頭を下げた。


「料理については、コハルに任せても良いかな? 

 我が国の料理人も協力は惜しみなくすると思うけれど、どうしても美食というのは馴染みがなくてね」


「分かりました、頑張ってみます!」


 とはいえ、この国の料理だって十分に栄養満点で美味しいと思う。そう思いながら、今のお茶会に出ている品々を見渡す。

 アミノ酸ハーブティーに、自家製プロテインバーの盛り合わせ、オートミールタワーに、ゆで卵タワーケーキ……。


 ……やっぱり少し独特だから、グルメシア国を招待するなら調整が必要かもしれない。


 私が早速、お食事会にむけて思案を重ねていると、バルク3世様が思い出したように口を開いた。


「そうそう、今日はもう一つ話したいことがあるんだ」


「はっ……! なんでしょう、バルク3世様」


 私はいったん思考を中断して、国王様に向き直る。彼はにこにこと笑顔を浮かべて、こう告げた。


「コハルが筋肉聖女だったということについてなんだけど」


「ひえっ……!?」


 そうだ、筋肉聖女宣言したまま、ドタバタ騒動が起こったから何の訂正もしていなかった!

 笑顔のバルク3世様と、驚く大佐に挟まれて、私は大いに動揺することになったのだった。

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