14話 ダンベリア王国、国王様登場!!
「明日、国王様の護衛任務ですか?」
軍の訓練も終えて少し休憩をとっていた午後、カイル大佐から執務室に呼び出された私は、告げられた任務の内容に目を瞬かせた。
「そう、我がダンベリア国の王、バルク3世から頼まれたのだ」
(私の所属している王国、そんな名前だったんだ……)
「バルク3世と私は、実は昔からの古い友人でな」
「ええっ、大佐が国王様とご友人!?」
「そうだ。私は元々、下級貴族の出身なのだが……。幼少の頃、父に連れられて王宮を出入りしているときに、当時王子だったバルク3世と知り合ったのだ。年の近い私たちは、身分の差をこえて親しくなってな」
「何だか素敵ですね、そういったご縁! バルク3世様は、どんな御方なんですか?」
「ふむ……。丁度、子供の頃の写真を持っている。これが私で、こっちがバルク3世だ」
大佐は懐から身分証を取り出すと、そのケースの中から一枚の写真を抜きとった。大切な物として、ずっと肌身離さず持っているのだろう。
それだけでも、大佐と国王様の絆が伝わってくる気がした。
「わぁ。子供の頃から、大佐はガッチリしていたんですね! 可愛いっ!! そして国王様は――な、なんて、儚げで愛らしいっ。こんなに繊細な雰囲気の御方なんですねぇ」
見せて貰った写真には、二人の少年が仲良さそうに並んで映っている。一人は木刀を掲げる幼少の頃のカイル大佐、もう一人は小柄で細身の、守ってあげたくなるような愛らしい少年――当時のバルク3世様だった。
「私、気合を入れて任務に当たりますね! 国王様ですし、大佐のご友人ということでもありますし、しっかりお守りしなくてはっ」
「ああ、期待しているぞ、コハル!」
こうして、私は大佐と一緒に重要任務につくことになったのだ!
◇ ◇ ◇
翌朝、私たちは早速、王宮へと国王様をお迎えに上がった。大きな城門をくぐり、豪華な装飾の施された広間や廊下を通り抜け、客間へと通される。
普段接することのない高貴な雰囲気に私は緊張しっぱなしだったが、大佐が慣れた様子で先導してくれた。そして、部屋で待つこと数分、バルク3世様その人が登場したのだった。
「……!?!?」
その姿を見た瞬間、私の思考は完全に停止した。私の脳内妄想では、あの儚げな愛らしい少年が成長したような、線の細い華奢な男性が登場するものだと思っていたのだが。
「やあ、君がコハルだね! 噂はよく聞いているよ。会えて嬉しいな!」
目の前に現れたのは、身長およそ2メートル、背が高いだけではなく筋肉の分厚さも超ド級の、スーパーマッチョマンだった。え、だ、誰……? 国王……様……??
「おっ、お初にお目にかかりますっ。お会いできて光栄であります、国王様!!」
私は思わずソファから立ち上がり、カクカクとした動きで90度の角度にお辞儀した。もう訳が分からないっ! でも、不敬になってもいけないから、取り合えず御挨拶はしないとっ!!
「ははは、いいよ、いいよ。ここは非公式の場だからさ。そんなに畏まらないで! カイルと久しぶりに会えるから、出発前に少し時間を作ったんだよ」
そういって、バルク3世様がカイル大佐の方へ視線をやる。私もつられて大佐の方を見やれば、彼は口許に手を当てて、必死に笑いを堪えるような仕草をしていた。
(――は、謀りましたねっ、大佐ぁ!!!)
私はぷるぷる震えながら、バルク3世様に見えないような角度で、大佐をジトリと睨みつける。そう、これは大佐の悪戯に違いなかった。彼を儚い美青年だと思い込ませておきながら、実物はムキムキマッチョマンでしたという、筋肉ドッキリである!
「ふふっ、……いや、相変わらず、良い筋肉だな、バルク」
「ありがとう! カイルもナイス筋肉だよ!」
「……実は、コハルには、君の昔の写真だけを見せていたんだ。だから、変化に驚いているらしい」
「え、昔って、あの細かった頃の!? なんだか恥ずかしいなぁ」
大佐がネタばらししてくれたので、私は何とかぜーはーと深呼吸してから会話に入る。
「本当に、とっても驚きましたよ! その、あの、今と印象が……正反対の方向性だったので……!」
「実は我が王家では、代々、17歳で体格が変わると言われていてね。そうだ、見せてあげよう! サーロイン、アルバムをここに!」
「はい、陛下」
国王様の側近であるサーロイン大臣が、アルバムを持って来て見せてくれた。そこには1年ごとに撮影された、バルク3世様の写真が記録されているようだ。
「わあ、こんな貴重なものを良いんですか? ありがとうございます!」
私はお礼を告げると、ドキドキしながらアルバムをめくっていく。果たして、あの美少年がどのようにしてマッチョマンへと成長したのか。
14歳――美少年
15歳――美少年
16歳――美少年
17歳――2メートル筋肉ムキムキマッチョマン
私はスンッと真顔になると、そっと優しくアルバムを閉じて国王様を見つめた。
「脱皮でもしたんです???」
「あっはっはっはっは!! やっぱり、君、面白いねぇ!」
「はっ……!? す、すみませんっ! あまりの衝撃で、私、大変に無礼なことを…! どうお詫びすれば良いでしょうか……。ハラキリ、ハラキリですかぁっ!?」
パニック状態に陥る私に、国王様は楽しそうに笑いかけた。
「いや、いいって、いいって。最初に悪戯したのはカイルのようだし。それにね、君が軍に配属になってから、カイルがいつも楽しそうなんだ。彼の友人としては、そのことについてお礼を言いたい位だよ」
「え、大佐が……!?」
「おい、バルク。余計なことは言わなくて良い……」
「ははは、照れてる、照れてる」
「……雑談はこれくらいで良いだろう。任務の話をしてくれ!」
カイル大佐が咳払いをして、いったん、その場の空気が落ち着いた。私は色々あったおかげで、すっかり最初の緊張も解けてしまった。
(それにしても、大佐と国王様は本当に仲が良さそう)
私は改めて彼を絶対に守らなくてはと決意する。そして、国王様の話に耳を傾けようとした次の瞬間、バンッ、と客間の扉が勢いよく開けられた。
「わわっ!?」
驚いてそちらに顔を向けると、そこにはドレス姿の少女が立っていた。髪はふわふわのブロンド、瞳は大きく、まるで宝石のようにキラキラしている。歳は5歳くらいだろうか。
「パパ!」
「パパ!?」
そう、彼女こそがバルク3世の溺愛する一人娘、キンバリー・ニクラウス・ダンベリアだったのだ!