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13話 めざせ最高傑作! 筋肉写真集を作ります!!!

 美少年ホログラムから守ってもらうという名目で、私はカイル大佐の部屋で眠ることになってしまった。

 その結果、部屋に一つしかないベッドを私が占領し、上司である大佐が床で寝袋に包まっているというカオスな状況となっている。


(うぅ、緊張して眠れない……)


 寝る場所を決める際、私が寝袋で寝ますと土下座する勢いで主張したのだが、大佐は頑として自分が床で寝ると言って譲らなかった。

 睡眠不足の部下にベッドを譲らないわけにはいかないし、そもそも自分は寝袋での休息も慣れている、と言うのである。


(確かに、今日は美少年ホログラムも、私の所に来ないけれど……)


 そう、大佐の筋肉に恐れをなしたのか、いつも就寝時になるとひょこひょこやってくるホログラム達が今日は近づいてこない。

 しかし、である。耳に届くのは、規則正しい呼吸音と時折の咳払い。私は室内の大佐の気配を感じるたび、布団の中でごろごろ転がってしまう。


(これは、意識するなという方が無理では!? でも、大佐は私と同じ部屋で寝てもなんともなさそう……)


 ――なんて、私は何をちょっぴりがっかりしているんだろう。いや、違う、そうじゃない。今一番解決するべきは、私の睡眠不足である。

 ともあれ、今夜は珍しく眩しくないのだ! 何とか眠ろうと必死に目をつぶっていると、小さな声が聞こえてきた。


「……だ」


(……?)


 耳を澄ましてみれば、どうやら大佐の寝言らしい。


「……腕立て伏せは、形を変えると効く場所も変わる。手を広げれば胸筋、手を狭めれば上腕三頭筋、足を高くすれば上胸筋に効果的だ……」


(待って、これは本当に寝言なの!?)


「すうすう……」


(寝てる……よね?)


「……筋肉は70%が水分。脱水は筋肉の収縮を妨げる。鍛錬中は小まめな水分補給を忘れるな……」


(寝言で、筋肉豆知識を披露しているーー!?)


 しかも、微妙にタメになることを!

 私は別の意味で気になって仕方がなくなり、安眠が更に遠退いていく。

 こうして私はこの日も、何なら今までよりも余計に眠れない夜を過ごしたのであった。


◇ ◇ ◇


 翌日、私の精神状態は限界を迎えていた。連日の睡眠不足に加えて、大佐と同室就寝の上、筋肉ラジオを一晩中聞き続けたのだ。


「懸垂は上半身の真実を映す。広背筋・僧帽筋・上腕二頭筋を一度に鍛えられる。体重を自在に持ち上げられてこそ真の筋力……」


 私はキャンプ地の通路を歩きつつ、ぶつぶつと呟いていた。今の私の頭の中は大佐のことでいっぱいーーもとい、筋肉豆知識で塗りつぶされている。


「筋肉は心を整える。トレーニングをすると幸せホルモンが分泌され、気持ちが前向きになる。筋肉は心の鎧だ……」


 すれ違う軍人さんたちが、私をぎょっとした顔で見てくるが、振り返る余裕はない。


「筋肉……」


「筋肉……」


 ひたすらそう繰り返す私に、唐突に天啓が下りてきた。

 今の惨状の全ての元凶は、あの美少年写真集である。それを打ち倒す方法は、やはりひとつ!! ひとつしかない!!!


「筋肉は、全てを解決する――ッ!!」


 高らかに叫ぶ私を、軍人さんたちが明らかに怯えた顔で見てくるが、当然振り返る余裕はない。私は通路を駆け抜けて、カイル大佐の執務室へと向かった。


◇ ◇ ◇


「大佐ぁッ!!!!!」


 バァン!と扉を開く私の気迫に、書類仕事中だったらしい大佐が息を飲む。ただ事ではない様子だと、室内に緊張感が走る。


「カイル大佐! ご協力をお願いします!!」


「どうした、コハル。何かあったのか!?」


「はいっ、筋肉写真集を作りましょう!!」


 私の渾身の提案をしたのだが、大佐は硬直してしまい反応がない。あれ、よく聞こえなかったのかな。もう一回叫んでおこう。


「筋肉写真集を作りましょう!!!!」


「いや、コハル。聞こえなかった訳ではない。君は突然、何を言い出すんだ?」


「だって、昨日、確かにホログラム美少年たちは私の所にやって来なかったじゃないですか! つまり、彼らは筋肉に弱い! そして写真集には写真集で対抗をすべきです!!」


「コハル……?」


「私は軍営の健やかな維持のため、カイル大佐の超絶☆筋肉写真集の製作を提案します!!」


「私の写真集なのか!?」


「当然です。大佐の筋肉はこの軍、いえ、この世界の至宝! ここで脱がずして、いつ脱ぐのです!!」


 私の言葉に、大佐がちょっと満更でもない顔を浮かべている。いける!これはあと一押しでいける!!


「んんっ……。しかし、コハル。君はいつも脱ぐなと言っているじゃなないか」


「それは、公共の場での話です! 写真集は魅せるために脱ぐから良いんです! どんどん脱ぎましょう!!」


「ふむ……」


大佐は組んでいた腕を解き、ほんの少しだけ頬を赤くした。


「……仕方ない。軍務に支障が出るのは看過できん。協力しよう!」


「やったぁ! 大佐大好き!!」


 こうして「筋肉☆写真集大作戦」が始まったのだった!


◇ ◇ ◇


「はい、大佐! もっと胸筋を意識して腕を伸ばしてください!」


 私の掛け声に、訓練場で汗を光らせながら大佐が腕立て伏せをする。


「ふんっ」


「最高です!! 鎧より硬い胸板!」


 私は魔導カメラで大佐をあらゆる角度から激写していく。

 鉄棒に移動すると、今度は懸垂する大佐の背中のV字がくっきり浮かび上がる。


「大佐、その角度です! もう少し顔を上げて、ほら自然光が背筋に当たるように!」


「ふんっ」


「ああーっ、良いですねぇ! その広背筋、まるで竜の翼のごとし!!」


 休憩の間、タオルで汗を拭く大佐をめざとく見つけた私は、ババッとカメラを向ける。


「頂きました、タオル越しのセクシーショット! まさに軍の誇りですね!!」


「コハル、君、楽しんでないか?」


「……?? はいっ、とっても楽しいですよ!」


 私が不思議そうに笑顔で頷くと、大佐の表情がふっと緩んだ気がした。


「そうか、なら良い」


「大佐?」


「さあ、休憩は終わりだ! 撮影を続けるぞ、コハル!」


「イエッサー!!」


 そして、私たちは場所を変え、シチュエーションを変え、様々な写真を撮影した。


 トレーニング室でバーベルを持ち上げる大佐。

「目線ください! 素晴らしい!! その上腕、巨人族の遺伝子か!?」


 剣を振り抜き上腕二頭筋を見せ付ける大佐。

「筋肉は戦闘中でも美しいっ! その肩幅、王国の門を支えられるぞ!」


 川辺で水しぶきを上げながら筋肉をきらめかせる大佐。

「きゃー! その水飛沫の粒になりたいっ! 腹筋が古代遺跡の石畳のよう!!」


 焚き火の前で静かにプロテインを飲む大佐。

「筋肉が盛り上がっていく音が聞こえるぞ! 大腿四頭筋が戦馬の脚だぁぁ!!」


 村の丘にて不器用な笑みを浮かべつつマッスルポーズを披露する大佐。

「たっ、大佐、可愛い……!」


「……コハル?」


「すみません、間違えました! そのポージング、まるで神話の彫像だぁ!」


◇ ◇ ◇


 こうして「カイル大佐☆超絶☆筋肉☆写真集(全256ページ)」は完成した。

 正直、分厚くしすぎた。どの写真も良すぎて選べなかった。写真集自体が、ちょっとした鉄アレイくらいの重みがある。


 ともあれ、その夜、私はこの写真集をホログラム美少年たちに掲げた。


「安眠祈願っ、ふん!!」


 筋肉写真集からあふれる筋肉パワーに恐れをなしたのか、彼らは転げるように逃げ出していった。


「やったぁ!! 成功だっ!」


 私は涙目で感動したが、効果はそれだけでは終わらなかった。

 美少年ホログラム避けになることが判明した筋肉写真集を、私は軍の主要箇所に配置したのだが、それが他の軍人さんたちの目に止まったのだ!


「コハル、その写真集……ちょっと見せてくれ」

「大佐の僧帽筋、芸術的だな……」

「これを参考に明日から筋トレを……!」


 そして、兵士たちの間で大ブームが巻き起こった。軍営では筋トレ熱が再燃し、皆が自主的に鍛え始める。


「ふふん、私のおかげで軍が強化されたわけだね!」


◇ ◇ ◇


 その夜、執務室にて、私は筋肉写真集の効果を大佐に誇らしげに語った。


「めでたし、めでたし。これで今日からは大佐にもご迷惑をかけずにすみますねぇ。あ、これ、大佐への献本です。特別に、表紙がキラキラ仕様です!!」


 大佐は受け取った写真集を一枚めくり、静かに呟く。


「……君の行動力には、驚かされる」


「へへっ。でも、大佐が協力してくれたから成功したんですよ!」


 私がにっこり笑うと、大佐はほんの一瞬だけ、口元を緩めた。


「まぁ、悪くない」


 その小さな笑みを見て、私の心臓はばくばくと音を立てる。


「それに、君の手元に美少年写真集ばかりあるという状態は、私にとっても望ましくなかったからな……」


「えっ、大佐?」


「……さあ、もう、就寝時間だ。今日こそゆっくり休みたまえ」


「あ、はっ、はい! ……おやすみなさい」


 私が頭を下げると、大佐はそっけない様子で軽く手を上げる。でも、その表情が、どこか照れているような……。


 ま、まさか大佐、美少年の写真集に焼きもちを!?


 気のせいかもしれないけど、そうだったら少し嬉しいな。なんて、考えるのもよくないかもしれないけれど。


 その日、私は筋肉写真集を抱き締めながら、久しぶりにぐっすりと眠った。大佐と筋肉デートをする夢を見て、なんだかとっても楽しかった気がする。

 ずっとこんな日が、続きますように。

不眠騒動も一件落着!

次回から、この世界の戦争事情などが展開されていきます。

国王様も登場しますよ!

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― 新着の感想 ―
コハルちゃんはきっと撮影中「筋肉聖女」の如く張り切ってたんだろうねえ… コハルちゃんが嬉しそうでなによりですよ。こういう嬉しそうな表現がしっかり輝いてますね!
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