表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/46

12話 まぶしすぎて眠れない! 不眠症の危機です!

 村での炊き出しも無事に終わり、私は軍の拠点に戻って眠り支度をしていた。


「うぅん、今日はいろいろあって疲れたなぁ。早く寝よう……」


 基本的に新入りは二人部屋になるのだが、私は部屋数の関係でありがたいことに一人部屋を与えられている。

 もうすぐ消灯時間だ。今日はよく働いたから、きっとぐっすり眠れるだろう。


 私がふかふかのお布団に潜り込み気持ちよく目を閉じた、次の瞬間。


 ドサァン!


 大きな物音が響く。


「ひゃっ!? な、なに!?」


 天井から落ちてきたのは一冊の本だった。表紙には金色の文字がキラキラと輝いている。


 ――『超絶☆美少年写真集(第二弾)』


「ま、また来た!!」


 落下の衝撃で開いた本により、部屋は真昼のように明るく照らされる。

 慌てて拾い上げて閉じるが、第一弾の写真集より明らかに光が強力になっており、その状態でも光がもれてくる。


「ううっ。これじゃあ眩しくて眠れないよぉ……」


 疲れた身体を引きずりながら、私はこの本の扱いに一晩中悩まされることになったのだった。

 そして、翌朝。


「……」


 眠い。結局、光と本の存在そのものが気になり過ぎて、全然眠れなかった。

 集会場までやってくると、寝不足で目の下にクマを作った私に気が付いたらしく、大佐が眉をひそめる。


「コハル、顔色が悪いな。昨晩は眠れなかったのか?」


「じ、実は」


 私は恐る恐る、美少年写真集(第二弾)を取り出した。


「ビルドさんが、また……」


「なんだこれは」


「ひぃっ! 見ない方が!」


 パラリ、と大佐が開いた瞬間、部屋がサーチライトのように輝き、窓の外でニワトリが「二度目の夜明けか!?」と勘違いして鳴き始めた。


「……なるほど。これは確かに安眠の敵だな」


 大佐が顔をしかめて本を閉じる。こんなときこそ筋肉流の解決策を伝授して欲しかったが、特にそういったこともなかった。

 流石に打つ手なしなのかもしれない。


 そうして眠り目をこすりながら何とか任務をこなして、また就寝時間がやってくる。


「よし、昨日のは片付けたし……きっと、今日は大丈夫!」


 私は祈るような思いでそう呟き、布団に潜り込む。正直、本当に眠い。この眠気ならば、多少の光があったって今夜は眠れる気がする。

 そう、私は、美少年の光害には屈しないのよ!


 睡眠不足の妙なテンションで脳内が盛り上がった、次の瞬間。


 ヒュッ……ドサァン!!


 ――『超絶☆美少年写真集(第三弾・水着特集)』が定期便のように頭上から降って来た。


「水着とか変化球来ましたねえぇっ!!」


 ぱらりとページがめくれただけで、軍営地全体が真昼のように明るく照らされた。


「いやああ!! 直視できないっ! 目が、目がぁ!!」


 私は布団を頭から被りながら叫んだ。

 そして、その光は他の軍人さんたちにも届いていたらしい。


「うわっ!? まぶしい! 敵襲か!?」

「違う、夜明けか!? もうラッパを吹くのか!?」

「ばかな、まだ夜中だぞ!」


 部屋の外から、悲鳴にも近い声が響く。

 当然、ニワトリも鳴いた。


 ……違う、違うんです、全部写真集のせいなんです。


 私は説明するために部屋を飛び出したかった。

 けれど、昨日からの睡眠不足でふらふらだし、そもそも深刻な光源が足元で輝き続けているので動けない。


「朝だ、起床しろ!」

「いや違う、夜襲を警戒だ!!」

「でも、こんなに明るい夜襲があるか!?」


 私は王国軍キャンプ地が大混乱に陥るのを、無力感と共に見ていることしかできなかった……。

 そして、長い夜が明けた、翌朝。


「コハル。君の部屋からもれ出した謎の光で、昨夜は全軍が二時間しか眠れなかった。説明を求める」


 私はカイル大佐の前に呼び出された。

 申し訳なさ過ぎて、言葉もございません……。


「す、すみません、大佐。その、ビルドさんが、またその……」


「また写真集か」


「は、はい」


 机の上に並んだ「第一弾」「第二弾」「第三弾・水着特集」

 光を放たぬよう厳重に布で包んであるのに、ほのかにチラチラ光っている。


「……コハル」


「はい」


「このままでは軍務に支障をきたす。今すぐ、この光害をなんとかしてくれ」


「む、無理ですぅ……!!」


 結局、軍の皆さんの協力を得て、全ての写真集は厳重に軍の倉庫に封印された。

 倉庫自体が何故かほのかに発光し始めたが、被害としてはその程度で食い止めることに成功している。

 そのため、その後数日はなんとか普通に眠れていたのだ。


 そんなある日の夜。


「ふぅ。ようやく落ち着いたかな! 安眠できることのありがたさ、かみしめて生きていきたい……」


 そう思って布団にくるまった、まさにその時――。


 ヒュルルルル……ドォォォン!!


 今までと比べ物にならない轟音が響く。


「ひぃっ!? 今度は何ッ!?」


 屋根を突き破って落ちてきたのは、一冊の巨大な本。

 しかも表紙にでかでかとこう書かれていた。


 ――『第四弾! 超絶☆美少年写真集・ホログラム特集!!』


「ホログラム!? いやな予感しかしないんですけど!!」


 案の定、ページが開いた瞬間、部屋の中に光の粒子が舞い上がる。

 そして、次々と浮かび上がる美少年たち!


「やぁ、コハルちゃん!」

「僕たちと一緒に眠ろうよ!」

「寝返りを打つたびに君を見つめるよ!」


「うわぁぁ!! なんで等身大で!? しかも動くの!? 喋るの!? やめてぇぇ! 

 ……あ、だめ! 来ないで欲しいけど、出ていくのはもっと駄目ぇっ!!」


 美少年のホログラムたちは、ルンタッタとご機嫌な様子で私のテントをすり抜けていく。私は慌てて追いかけるが、ホログラムなので全く捕まえられない!


「敵襲ぅぅ!!」

「キャンプに侵入者だ!! 全員配置につけぇ!!」


 軍営地は再び大混乱に陥った。


「な、なんだこの金髪の美少年は!? 剣を抜いたら笑顔でウィンクしてきたぞ!」

「こっちには黒髪美少年が現れて、筋トレを応援してきてます!」

「なんで俺の枕元にだけ湯上がりタオル姿が!? やめろぉぉ!!」


 兵士たちは戦場さながらの混乱状態。

 私は涙目になりながら、大佐に引きずられて本を抱えて指揮所に運ばれていた。


「コハル……これはもう許されん」


「す、すみませんすみません!! 私だって望んでないんです……!!」


「いや、君を責めているわけではない」


「えっ?」


「筋肉を差し置いて、美少年が輝いている現状が、だ」


「そっちですか!?」


 机の上で光を放ち続ける第四弾写真集。本を閉じても閉じても、中からホログラム美少年たちが定期的に生み出されている。

 彼らは大佐の周囲をくるくると舞い、キラキラの視線を送っている。


「くっ……目障りだ。排除する」


 分厚い拳を構える大佐に、私は必死にしがみ付く。


「やめてください大佐! 下手に殴ると軍営ごと光に包まれちゃいます!!」


「むぅ」


 彼が唸りながら拳を下ろしてくれたので、私はほっと息を吐いた。



◇ ◇ ◇


 その後、どう頑張っても封印できなかった第四弾の発光ホログラム美少年は”軍営の夜間照明”として一時的に利用されることになった。

 夜でも明るく作業できると兵士たちは喜び、業務効率も倍増した……のだが。


「私は眠れないんですよぉ!!」


 ホログラム美少年たちは何故か定期的に私の部屋を覗きに来るので、私の寝不足は加速する一方だった。

 目の下にクマをつけ、ふらふらになった私を見て、大佐は小さく息を吐いた。


「……仕方ない」


「へっ?」


「今日から君は私の部屋で休め。筋肉であいつらを追い払ってやろう!」


「な、な、なんですってぇ!!?」


「大丈夫だ。私が責任を持つ」


 真剣な表情で告げる大佐に、私は顔を真っ赤にして固まる。


「べ、別に! 私は大丈夫ですから! 大佐にご迷惑をかける訳には……!!」


「いいから来い」


 ずるずると引き摺られていく私。その背後でホログラム美少年たちが、にやにやと手を振っていた。


「いってらっしゃーい」

「大佐さんと仲良くね!」


「黙ってろぉ!!」


 ――こうして私の不眠症との戦いは、新たな局面を迎えるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ