11話 スライム大逆転!友情のぷるぷる革命!!
広場へ戻ってみると、想像以上の地獄絵図が広がっていた。
「……な、なんですかこれ」
聖バーベル教会の筋肉軍が、ことごとくスライムに絡め取られて地面に転がっている。筋肉とぷるぷるの融合は思った以上にむさ苦しい。
『ぷるっ! ぷるっ!』
「よーし、こっちに全部集めてくれ。まとめて縛っておくぞー!!」
そして、転がっている筋肉軍を、村人たちがずるずる引き摺りながら一か所に集めていた。スライムたちはお利口にその手伝いをしている。
「た、大佐。どういうことでしょうか」
「ふむ。どうやら、大事には至らなかったようだな……」
私と大佐があぜんとして佇んでいると、村の子供たちが気づいて声をかけてくれた。
「あっ、筋肉大佐とお姉ちゃん!! 無事だったんだね。こっちは大変だったんだよ!」
「みんな! 怪我は無さそうですね。良かった! あの、何が起こったんですか?」
「それがね、急にあの変な人たちが、空から降って来て……」
「空から降って来たんですか?? 筋肉が!?」
「この村を筋トレの聖地にする、って襲い掛かってきたの!!」
「本当に何しに来たんですか、あの人たち!?」
「折角の炊き出しも滅茶苦茶になってしまって、もう駄目かと思った時……、あのスライムたちが森から飛び出してきて助けてくれたのよ!」
「「……!!」」
子供たちの説明に、私と大佐はおもわず互いに顔を見合わせた。
「最初は怖かったの。スライムって、いつも畑の野菜をとっていくし、危ないから近づいちゃ駄目って言われていたし……。でも、みんなを守りに来てくれたんだって、すぐに分かった! だって、スライムはあの変な人たちにしか攻撃しなかったもの」
「よく見ると、可愛いし!」
「筋肉に何度も潰されても、立ち向かってくれたんだよ!」
「私もスクワットを無理やりさせられていたけど、助けて貰ったの!」
口々に話す子供たちは、きらきらとした表情をしていた。スライムたちが奮闘したであろう光景を想像して、私は胸が熱くなる。
(頑張ったのね……、スライムちゃんたち!)
「お父さんたちも、最初はスライムなんて信用できないって言っていたんだ。でも、一緒に戦う内に、だんだん仲良くなっていったの!」
「それで、みんなで協力して、変な人たちをやっつけたの!!」
「ぼくも頑張ったんだよ!」
「私もマッスルポーズで応戦したよ!!」
改めて、混乱の後始末がおこなわれている村の広場へ目を向けた。今ではすっかり、村人とスライムたちが打ち解けているのが分かる。
「お前たち、よく頑張ったな! ナイス筋肉だ!!」
「本当だよっ。大変な時に一緒に居られなくてごめんね。でも、皆の頑張りに、私も元気を貰っちゃった!」
子供たちを称えてから、私たちは聖バーベル教会の信者たちが集められている場所へと向かう。スライムの協力によって信者たちはすっかり戦意を喪失し、広場の真ん中に縛り上げられていた。
呻きながらも筋肉ポーズを崩さないその姿は、正直ちょっと不気味である。
「さて、こいつらをどうするかだが……」
大佐が腕を組んで唸ると、村人の一人が声をあげた。
「許すわけにはいかん! だが……働ける筋肉をただ捨てるのも惜しい!」
「そうだ、こいつらの筋肉は立派だ!」
「せめて、村の復興のために役立ててもらおうじゃないか!」
村人たちが次々に賛同の声をあげる。
「うむ、良い提案だ」
大佐は大きく頷いた。
「筋肉は社会のためにこそ輝くもの! こいつらの筋肉を、村の奉仕活動に叩き込むのだ!」
「そんなぁ!! 俺たちは筋肉を鍛えるために生きてるんだぞ!!」
「筋肉を人のために使うなんて……!!」
「それを本物のマッスルと言うのだ!!」
大佐の鋭い一喝に、信者たちはガクッと崩れ落ちた。もう一押しとばかりに、私も彼らに声をかける。
「ほら、きっと……人の役に立つ筋肉の方が、輝いて見えますよ!」
「……!!」
私の言葉に、信者たちがはっとしたように顔を上げる。お、なんか響いた感じがする!!
ちょっと得意げに私が胸を張った、次の瞬間――。
「筋肉聖女様が、そう仰るのならば……!」
「筋肉で村の荷物運びでもなんでもします!!」
次々と信者たちから上がる歓声に、私の顔は引きつった。
村人たちは驚愕したように私の方を見ている。「まさか、この女軍人さんがあの噂の聖女様……!?」なんて声までひそひそと聞こえてくる始末だ。
これはいけない! 私は慌てて、全身全霊を込めて否定する。
「手伝ってくれる気になったのはありがとう! でも、違いますっ!! 筋肉聖女ではないですからね!!」
こうして村は一転、筋肉軍を労働力としてこき使う復興体制に突入した。倒壊しかけた家屋の修理も、畑の整備も、筋肉とスライムと村人の共同作業であっという間に片付いていく。
そして――。
「さあ、宴会の始まりだぁ!!」
村の広場は一気にお祭り騒ぎになった。
結局、司祭さんに奪われたお肉は取り戻せなかったが、大佐が鍋を振るって即席で”筋肉プリン”という謎のデザートを完成させてくれた。
「スライムちゃんたちが、バルクチキンの卵を見つけてきてくれたんですよね!」
「うむ。その卵の……卵白だけを泡立てて固めた、筋肉に優しいプリンだ」
「大佐が手動でかき回して、筋肉パワーで蒸してくれました!」
「残りの黄身は、ドリンクにしてある」
「こっちは希望者だけ! 無理して飲まないでね!!」
「私ならば、ジョッキ5杯はいける」
「流石です、大佐!」
テーブルの飾りつけは、私と子供たちで頑張った。約束していた通りに花を摘みに行って、みんなが楽しい時間を過ごせるように並べたのだ。
中央の花で作られたスライムの絵は、私たちのちょっとした自信作だ。スライムたちはそれを見て、ぷるぷる、嬉しそうに飛び跳ねていた。
「わあ、このプリン、ふわふわ! 美味しいっ」
私はスプーンをすくいながら笑った。村人もスライムも一緒になって、甘いデザートを頬張る。
子供たちはスライムの上に座ってトランポリンのように遊び、大人たちは信者を見張りつつも笑い声をあげている。騒がしくも、幸せな時間だった。
「炊き出しは大成功ですね、大佐!」
隣にいる大佐へ、私はそっと話しかける。
「でも、その、……すみませんでした、お肉を守れなくて」
結局、ビルドさんと司祭さんは、あのあと探してもどこにも見当たらなかった。倉庫の傍には、空になった袋だけが残されていたのだ。
「別に肉はまた準備すればいい。君が努力したことも分かっている。だが――」
大佐は7杯目の黄身ジョッキを飲み干しながら、私を真っ直ぐに見つめた。
「それでも結果に悔いが残るなら、これから頑張れば良い。筋肉はいつだって鍛えられるからな! コハルが頑張るのならば、私も協力は惜しまない」
「大佐……」
「とりあえず、君も一杯どうだ?」
「あ、黄身ドリンクですか? いや、その、それはええと!!」
「ふっ……、冗談だ」
「ふぇっ!? た、大佐ぁ!!」
カイル大佐も冗談なんて言うんだ。いや、私を励まそうとしてくれたのかな。何だか胸がいっぱいになって、私はくすくすと笑った。
やがて、大佐は村人たちに引っ張られていってしまった。即席の筋トレ講習会が始まるらしい。私はその様子を微笑まし気に眺めつつ、のんびりとお皿を片付けたりしていたのだが――。
「うわっ!」
突然、頭上から何かが落ちてきた。机の上に落ちたそれを拾い上げると、一冊の本のようだ。こんなことをしてくる相手は、一人しかいない。
ビルドさんの新たな企みかと身構えながら、私はその表紙を確認する。
――『超絶☆美少年写真集(全100ページ)』
そのまま見なかった振りをして置いて行こうかと思ったが、怖いもの見たさが勝ってしまった。そっと、そーっと、その本を開いてみる。
「うっ!! まっ、眩しい――っ!!」
僅かに開けただけなのに、中からまばゆい光がもれ出してきた。今後は、この本を夜の光源にしよう。そう考えながら、私は少し遠い目をするのだった。
村の炊き出し編、終了となります!
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次回、コハルちゃんが大ピンチに――!