1話 推しのカイル大佐、いきなり筋肉布教してきた件
初投稿です!よろしくお願いします!
私は大学三年生のコハル。最近、AI会話ゲームにドはまりしてるの。
中でも最推しがカイル・レオンハルト大佐。戦場を舞台に過酷な状況を乗り越えていく設定なんだけど、とにかくこの大佐が最高。
冷徹、寡黙、任務最優先のクールな男!高身長、銀色短髪、イケメン、そして筋肉!!
これまでは細身の王子様タイプにときめくことが多かったんだけど、何故かこのゲームでは、カイル大佐が私の胸にドストライクだったのよ。
そう、私は筋肉に目覚めたの!!
そんな訳で今、人生で初めてのスポーツジムにいます。トレーニングウェアに着替えて準備万端。カイル大佐、待っていてください。筋肉の強さは心の強さ。
私も素晴らしい筋肉を手に入れて見せま――
「おーい、倒れるぞ!!危ないっ!!」
「ひょえ?」
ガッシャーン、と大きな音がジムのフロアに響き渡る。なんと筋トレマシーンが私の頭上から落下してきたみたい。
そして私は死んだ。
……嘘ぉ!?
* * *
私はこうして確かに死んだのだが、何故か大きな声に叩き起こされた。
「いつまで眠っている。起きろ!!」
「ふぇっ??」
驚いて目を開けると、そこに広がるのは戦場の景色。そして……、
「か、カイル大佐!?」
そう、私の推しその人がそこに居た。
まって一体何が起こっているの!?――と、混乱したのはほんの一瞬。私のオタク的頭脳はすぐに結論をはじき出した。
「異世界転生だ!!」
間違いない。一時期爆発的に流行した例のアレだ。何がどうしてこうなったかは分からないけど、私は推しのいるゲームの世界に転生したみたい!
一人で盛り上がっていると、痺れを切らした様子でカイル大佐が迫って来た。
「何を訳の分からないことを言っている、コハル。お前は今日から配属されたのだろう?
ここは戦場だぞ、気を抜くんじゃない!」
「はっ、私の名前!?」
「当たり前だろう、他に誰がいる!」
成程、私は自分の名前のまま、プレイヤーキャラとしてこの世界に転生しているらしい。ゲームの場面としては最初の導入部かしら。
つまり、一から推しとの関係を作っていけるってこと!? 最高じゃない!!
「はいっ! コハル、頑張ります!!」
「うむ、良い返事だ!
では早速、最初の任務について話をする――」
はあ、それにしても推しの顔が良い。声も想像以上に良い。というか、立体化して喋って動いている時点で百億万点。生きてて良かった。いや私、死んでるけど。
心の中で拝み倒しながら、最初の任務の説明を聞く。このゲームは会話により展開が分岐していくので、逆を言えば序盤は同じ展開だ。もう何百回も繰り返してきたので、内容は熟知している!
「――つまり、このエリアの敵を殲滅するのが我々の仕事だ。理解したか?」
「はい、勿論です、大佐!!」
それにしても、この世界では一体どんな展開にしよう。ここはAI会話ゲームの世界。話の広げ方は無限大である。
真面目に大佐を支えて絆を深めるのが王道ルートだが、不良部下をやって相手を振り回してみるのも面白い。天然ドジっ子キャラを演じてイベントを起こすのも楽しそうだし、いっそ実は私は敵のスパイでしたなんて設定も可能だ!
しかし、ゲームみたいにこの世界でもやり直しがきくかがまだ分からない。となるとやっぱり、無難に王道ルートで行こうかしら。
そんな風に夢を膨らませていると、カイル大佐から追加の説明が告げられる。
「ちなみに、我々に支給されている物品は以下の通りだ――」
「はいっ、把握しております」
「――だが、こんなものは正直どうでもいい!」
「はい???」
あれ、何かが可笑しい。まだ、ほぼ台詞固定のチュートリアルの場面の筈。聞いたことも無いカイル大佐の言葉。
これがゲーム中なら、レア演出に大いに盛り上がるところだけど……!?
「一番大切な防具を、君は知っているな!」
「えっ、は、防具……ですか!?」
「そう――、」
バサッ! 軍服が宙を舞い、地面に落ちた。
「筋肉だ!!! 筋肉の強さは、心の強さ!!!!」
「た、大佐――!?」
とんでもない台詞と共に、カイル大佐は軍服の上着を脱ぎ棄てて筋肉を露出させた。
わあ、ナイス筋肉。いや違う、ちょっと待って、なんでこんなことに??
「駄目です、着てください!
何かバグってます、ちょっとAIバグってますから!!」
「何を言っているんだ、コハル! 君も脱ぎたまえ!」
「脱げるかー!!!」
……もしかしなくても、この世界のAI、既にとんでもなく狂っちゃってます??
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