第91話 勇者……旅先で仕事する
湧き立つ温泉――。
旅先の森に、ふわりと湯気が立ちこめる。
「よっしゃぁ! みんな風呂だぁぁぁ!!」
勇者が全力でタオルを振ると、社員たちが歓声を上げた。
「うわぁ……ほんとに温泉だ……!」
スライムがぷるぷる震え、
「これは……疲れ取れるやつ!」
ミノタウロスが鼻息を荒くし、
「社長……奇跡だけは本物よね……」
妖精は呆れ半分、感心半分。
魔王は腕を組み、じっと湯を見つめていた。
「……本来、旅とは心を休めるものだ。仕事の話は――」
「魔王! 湯の温度管理どうする!?」
「仕事するなと言っただろうが」
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一同が温泉の準備にバタバタしている頃――
全く別の場所、新たな“視線”が勇者を捉えていた。
――人間国・王城。
「陛下! 大変でございます!!」
「また猫動画が流行っているのか?」
「違います! 勇者s…元勇者が……魔王領で“温泉を掘っております!!”」
「……は?」
重い沈黙が落ちた。
侍従が震える指で映像球(魔導通信端末)を差し出す。
そこには――
スコップで地熱魔獣を殴りながら、結果的に温泉を掘り当てて喜ぶ勇者の姿。
《#温泉ボーイ元勇者》《#魔王領でヒモ生活中》《#勇者の休日》
コメント欄には好き勝手なタグが並ぶ。
「……な、何をしておるのだ、あいつは」
「魔王に洗脳されております! きっと強制労働を……!」
「いや、笑顔なので自主的かと」
「余計にタチ悪いのでは?」
王は深く息をついた。
「……偵察部隊を出せ。
勇者の状況を、直接確認せねばならぬ」
書面が次々と飛び交い、
人間国の“静かな戦いの準備”が始まった。
――ただし。
偵察隊の会話は、酷かった。
「勇者は“朝弱い”らしいぞ」
「スコップを見ると戦闘モードに入るとか」
「魔王と同棲している説もある」
「魔王と同棲?!難易度高すぎるだろこの任務!!」
偏見のオンパレードである。
※1部事実も含まれている
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一方その頃、温泉では……
「魔王~! 露天風呂の脱衣所どうするー!?作るか!?」
「作業するなと言っているだろうが!!」
旅先なのに働こうとする勇者。
湯気の中で頭を抱える魔王。
ほのぼのとした時間は続いていく。
ただ――
その背後に迫る、“別の足音”に気づかないまま。
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勇者、温泉を作りながら仕事する。
人間国、勇者の動画で大騒ぎ!




