第9話:勇者よ……晩ごはん時に来るなよ
夕飯は一日のごほうび。
だが勇者、空気を読まずに討伐突撃。
戦より大事な「食卓の平和」を守れるか?
ピンポーン。
時刻は午後七時。魔王城のダイニングからは、煮込みのいい匂いが漂っていた。
扉を開けた魔王は、エプロン姿でお玉を持っている。
「……今は晩ごはんだ。三十分待て」
「三十分も!? じゃあ軽く戦ってから食べよ」
「料理が冷める。冷めたシチューは許せん」
ダイニングのテーブルには、大鍋のシチューと焼きたてのパン、彩り豊かなサラダ。
勇者は思わず椅子に腰を下ろす。肩の聖剣が小声でささやく。
「おい、勝手に座るな。これは生活だ」
「だって、うまそうだろ」
魔王はため息をつき、勇者の前に皿を置いた。
「条件だ。一、手を洗え。二、つまみ食いするな。三、全員そろって“いただきます”」
「はいはい……」
二人と一本の剣で声を合わせる。
「いただきます」
スプーンを口に運んだ勇者の目が丸くなる。
「……うまっ! なにこれ!」
「時間をかけて煮込んだ。戦より価値がある」
勇者はパンをちぎり、シチューに浸す。
「これ食べてから戦うのもアリだな」
「食後三十分、消化を待て。四、食休みだ」
「長ぇよ!」
「隣の老竜が早寝だからな。二十一時以降は静音だ」
食べ終えると、魔王が指を立てる。
「五、片付けは一緒に。食卓を荒らすな」
「はい……」
勇者は皿を流しへ運び、テーブルを拭いた。
そのとき、壁際のスピーカーが勝手に点いた。
――運動会のBGMが流れだす。
「なんでここで!?」
「タイマーだ。食後のBGM」
「直そうな!? 絶対直そうな!?」
夕飯は神聖。戦は後回し。
「洗う・待つ・いただきます・片付け」――食卓の掟は絶対です。
次回は、共有スペースをめぐる騒動「勇者よ……休憩所散らかすなよ」を予定。




