第86話 勇者よ……起業するなよ
「というわけで! 本日から俺は、社長だ!」
勇者が宣言すると、魔王城の一同は固まった。
「……勇者、また何を始めた?」魔王が低く尋ねる。
「会社だよ会社! “新・勇者インダストリー”!」
「潰れた会社の名前に“新”つけるな!」
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勇者は机の上に雑な紙を広げた。
「ほら、これが事業計画書!」
魔王は恐る恐る覗き込む。
【事業内容】
・なんかスゴイことをする
・たぶん儲かる
・最終的に世界が平和になる
「……企画書に“たぶん”って書くな!愚か者が!」
「誠実さが大事だと思って!」
「……せめて最低限の算数を学べ」
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スライムが手(的なもの)を挙げた。
「社長ー! 初任給っていくらですか?」
「まだ資金ゼロだから出ない!」
「やばー!ブラックだー!!」
妖精が頬杖をついて言った。
「福利厚生は?」
「えっと……笑顔と希望!」
「いや……それ会社じゃなくてただの宗教よ?」
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勇者は机を叩いた。
「わかった! まずはクラウドファンディングだ!」
「何を集める気だ?」魔王が問う。
「“夢への投資”!」
「…詐欺の第一歩だぞそれは」
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その日の夕方。
勇者が魔導ネットで“新会社立ち上げ動画”を配信した。
「皆さんこんにちは! 勇者です!
夢を叶える会社を作ります! 出資してね!」
――一時間後。
【コメント欄】
「これ投資よりただの募金では?」
「前の会社潰した人だよね?」
「#ニート勇者またやってる」
「バズってるけど方向性が最悪ぅぅぅ!!!」
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夜。
魔王が静かに紅茶を置いた。
「勇者。お前はまだ、“責任を持つ”ということを理解していない」
「責任、ねぇ……」
「社長とはな、最初に苦しんで、最後に笑う者だ。
先に笑うやつはただの頭お花畑だ」
勇者は黙って天井を見た。
「……難しいなぁ。俺、笑うのだけは得意なんだけどな」
「なら、それを仕事にしろ」
「お、芸人か?」
「違う」
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勇者、まさかの起業家デビュー。




