第80話 勇者よ……経理に触るなよ
「勇者、貴様……これは何だ?」
魔王が眉間を押さえながら帳簿を机に叩きつけた。
「え? えーっと……“家計簿”?」
「家計簿じゃねぇ! 経理だ!!」
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魔王の怒鳴り声が会議室に響く。
「収支表が“にっこりマーク”で埋まっているのは何だ!」
「あ、わかりやすいと思って。黒字の日は☺︎、赤字の日はт тにしたんだ」(絵文字が使用不可なので分かりづらくて申し訳ない)
「は?!馬鹿か?!!絵文字で経営するな!」
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魔王がため息をついてページをめくる。
「“支出:スライムのごほうびゼリー100個”……これは?」
「努力賞!」
「なんのだ?!」
「“妖精のための防音結界強化工事”」
「ツッコミの音量がうるさくて」
「お前らライブ会場じゃなくてここは職場だろうが!」
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勇者は椅子に座りながら苦笑した。
「いやぁ、会社って思ったよりお金かかるんだなぁって気が付いたよ」
「気づくの遅いわ!」
魔王は頭を抱え、赤字の欄を指さす。
「この“支出:愛と感謝”って項目はなんだ」
「いや、ボーナスの気持ちを表しただけで……」
「せめて貨幣単位にしろよ!!」
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聖剣が壁際から口を挟む。
「勇者よ、経理とは戦場でいう“補給路”だ。
管理を誤れば、全軍が飢えるぞ」
「え、つまり今の俺たちは……?」
「……まぁ餓死寸前って所だ」
「嘘だぁぁぁぁぁ!!」
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魔王は立ち上がり、机をバンと叩く。
「勇者。経理は我が直轄とする。お前は一切触るな」
「えぇぇ!? でも俺、経営者だぞ!?」
「経営者が“数字苦手”とか致命的だろう?」
「数字に心が無いのが悪い!」
「経理に詩心いらねぇ!!!」
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結局その日、勇者は会計室から強制退場。
魔王が夜遅くまで帳簿を整理し、ため息をついた。
「……まったく、勇者のせいで我が魔王領の財政が泣いておる」
窓の外では、スライムたちが歌いながら夜勤清掃をしていた。
――だが、その笑い声だけは、確かに“黒字”だった。
勇者、経理で大爆死(笑)




