第7話:勇者よ……洗濯物勝手に取り込むなよ
雨が近い魔王城。
善意で洗濯物を取り込んだ勇者が、うっかり“結界用ローブ”を折り間違えてしまう。
生活と魔法がぶつかる中庭コメディ回。
魔王城の中庭。ロープにシーツとマントが並んでいる。空は暗い。雷の音が遠くでする。
ピンポーン。
勇者はインターホンを押した。返事はない。
ぽつ、ぽつ、と雨が落ちてきた。
「やば。降るな、これ」
勇者は走って物干しへ向かった。
マント、タオル、パジャマ。どんどん取り込んで、洗濯カゴに入れていく。
「おい勇者。勝手にやると怒られるぞ」
肩の聖剣がぼやく。
「大丈夫だって。濡れるよりマシ」
黒いローブが風にあおられた。銀色の糸で細かい模様が縫ってある。
タグには小さく書いてある。
――「結界用。銀糸の線どおりに折ること」
「ふむ。大事そうだな」
勇者はローブをさっと二つ折りにした。
次の瞬間――
ボフン。空気がゆれる。
中庭の魔法の明かりが、一斉に消えた。
『結界が切れました。非常モードに切り替えます』
「うわっ!? 今の、俺?」
「そうだって言ってるだろ!」聖剣が怒る。「タグ読め!」
そのとき、背後から声。
「――なにを勝手に取り込んでいる」
魔王が立っていた。濡れた前髪。肩にタオル。足はサンダル。
「雨が来てて……つい……」
「善意はありがたい。だが、勝手は困る」
魔王の視線が、勇者の手のローブで止まる。
「その折り方だと、線がずれる。結界が弱くなる」
「直すにはどうすればいい?」
「簡単だ。銀糸の結び目を合わせる。模様の交点をそろえる。線に沿って折る。順番は――」
「結・整・折る、ね?」
「そうだ。声に出すと失敗しない」
二人は向かい合って、ゆっくり布を動かした。
銀糸がかすかに光る。折り目が合う。
「――結」
「――整」
「――折」
ぱち、ぱち、ぱち。消えていた魔法灯が順に点く。
『結界を復旧しました』
勇者はほっと息を吐いた。
「折り紙みたいだな」
「結界は折りで決まる。紙一重だ」
雨が強くなる。魔王は洗濯カゴを抱え直した。
「中に入れ。湯も沸いている。だが――」
「だが?」
「取り込む前にインターホンを押せ」
「結局そこ!!」
遠くで、運動会のあの曲が鳴りはじめた。
「誰が流した?」
「自動再生だ。雰囲気は大事だからな」
「ラスボス戦に運動会はやめろって!」
読んでくれてありがとう。
今日の教訓は「まずタグを読む」「まずインターホン」。
次回は――「勇者よ……カレンダー勝手に書き込むなよ」。お楽しみに。




