第63話 勇者よ……会社を作るなよ
「俺、決めた! 会社を作る!!」
朝から叫び声が響いた。
魔王は机の書類を落としながら顔を上げた。
「……お前、何て言った?」
「会社! 俺が社長! これで面接なんか受けなくていい!」
「なるほど。問題を根本からやり始めるタイプだな」
勇者は羊皮紙をバンッと広げる。
「会社名は――《勇者インダストリー》!」
「業種は?」
「よくわからないけど、なんかカッコいいだろ!」
「……破産の香りしかしない」
聖剣が壁際から冷静に口を開いた。
「なぁ勇者よ、従業員はいるのか?」
「もちろん! 俺と………魔王!」
「なぜ我が入っておる」
「だって魔王って肩書き、“顧問”感あるじゃん!」
魔王は額を押さえた。
「……勇者、会社というのはな、計画、資金、人材――それらが揃って初めて成立するものだ」
「大丈夫! 全部なんとかなるって!」
その瞬間、老竜がのんびり顔を出した。
「ほう……“会社”とは飯が出るところか?」
「出るかもしれない!」
「ならば入社する!」
「やったー! 初の社員ゲット!」
魔王の表情が完全に固まる。
「……老竜、お前まで何を」
「もう数百年は何もしていないからの。老後に働くのも悪くないかとな」
勇者は勢いそのままに号令をかけた。
「よーし! 今日から我が社のスローガンは“なんとかなる!”だ!」
「いや、ならん」
数時間後――。
“勇者インダストリー”第一事業として始まったのは、
なぜか「魔王城内便利屋サービス」。
「壊れた扉の修理も! 掃除も! 洗濯も! 勇者インダストリーにお任せ!」
「勇者、お前それ……ただの家事代行だろ」
「違う! ビジネスだ!」
……結果。
数日後、魔王城には「支払い請求書」が山積みになっていた。
すべて勇者の経費申請である。
「勇者。経営、向いていないな」
「……やっぱ?」
「やっぱりだ」
「……でも楽しかったからいいや」
魔王は小さく笑った。
「まったく、どこまでいってもお前は“勇者”だな」
「えへへ」
そのとき聖剣がぽつりと呟く。
(……まさか“社長”になってまで失敗するとは思わなかった)
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勇者、起業一週間で倒産。
“なんとかなる”はスローガンではなく、ただの願望だった。
次回――「勇者よ……経営相談を受けろ」。
まさかのリベンジ!? 異世界ベンチャー、地獄の顧問面談へ!




