第6話:勇者よ……冷蔵庫勝手に開けるなよ
戦闘開始前に、なぜか冷蔵庫チェックを始める勇者。
「勝手に開けるな!」と怒る魔王だが、そのやり取りはもはや家族のよう……?
プリンを巡る戦いは、剣よりもスプーンが似合う第6話です。
魔王城、玉座の間――ではなく、今日はやけに生活感のある部屋だった。
壁際には観葉植物、低いテーブルの上には読みかけの週刊誌、奥には……普通の冷蔵庫が鎮座している。
「……おじゃましまーす!」
勇者はノックもなしにズカズカと入ってきた。
足音がやたら軽い。
「……あれ、今日は戦闘しないの?」
『いや……お前が急に来たんだろうが。ちょうど昼飯作ろうとしてたところだ』
魔王はエプロン姿でキッチンに立ち、フライパンを軽くあおっている。
香ばしい匂いが漂い、勇者の腹がぐぅと鳴った。
「いい匂い……なぁ魔王、その冷蔵庫の中って何入ってんの?」
『ん? まぁ普通の食材だが――』
その言葉を最後まで聞く前に、勇者はすたすたと冷蔵庫へ向かい、ガチャリと開けた。
「おぉ〜……! 牛乳、卵、ベーコン、あ、プリンもあるじゃん!」
『勝手に開けるなっっ!!!』
フライパンを持ったまま、魔王が仁王立ちする。
『いいか勇者……他人の家の冷蔵庫は“聖域”だぞ。戦場だろうと家庭だろうと、勝手に踏み込むな』
「え〜、だってさ、魔王の生活って気になるじゃん?」
『気になるからって勝手に調べていい理由にはならん!』
「でもこのプリン、賞味期限昨日までだし、食べないともったいなくない?」
『それ我輩のデザートだ!!』
勇者はスプーンを手に、にやりと笑う。
「……じゃあ戦闘で俺が勝ったら、これもらっていい?」
『人の物を勝手に景品にするな!』
しかし、魔王は少し考えて、ニヤリと笑った。
『……いいだろう。だが我輩が勝ったら……そのプリンはお前の額に塗ってやる』
「なんで!? 食べ物粗末にするなよ!」
言い争いながら、二人はテーブルを挟んでにらみ合う。
――そして、戦いは始まらなかった。
理由は単純。
魔王が作った昼飯が、思った以上に美味しそうだったからだ。
最後まで読んでくれてありがとう!
今回は戦闘よりも昼食会。勇者の突撃は、だんだん侵入から訪問に変わってきた気がします。
次回は「勇者よ……洗濯物勝手に取り込むなよ」を予定。
さらに生活感が増す魔王城をお楽しみに