第60話 勇者よ……店を継ぐ?
スライム焼き屋が大惨事で終わった翌日……
反省どころか、妙にやる気を出した勇者。
今度の野望は――まさかの「跡継ぎ」!?
朝の魔王城。
珍しく机に向かって何かを書いている勇者の姿があった。
「ふっふっふ……これで俺も一国の主だな」
「……勇者。嫌な予感しかしない」魔王の声がした。
「聞いて驚け! 俺、店を継ぐことにした!」
「どこのだ」
「昨日のスライム焼き屋!」
「潰れたではないか」
勇者は胸を張った。
「店主さんが言ってたんだ。“もう胃がもたんから誰かに任せたい”って! 俺、やるしかないと思った!」
「お前、昨日スライムに逃げられたばかりだろう」
「でも今回は改良済み! “加熱固定型スライム”を使えば逃げない!」
「……名前の時点で食欲が失せる」
結局、広場には再び屋台が立った。
看板には《二代目スライム焼き本舗・勇者店長》の文字。
「へいらっしゃい! 今日のスライムは弾力が違うぞ!」
客が一口食べる。
「……うまい! でも口の中でまだ跳ねてる!」
「それが新食感だ!」
そこへ通りがかった聖剣がぼそりと呟く。
「勇者よ……もはやこれは料理ではなく、実験だ」
魔王は腕を組み、遠くからため息をつく。
「……放っておけばそのうち爆発するだろう」
「聞こえてるぞぉぉ!」
案の定、鍋の中からボフッと煙が上がった。
次の瞬間――屋台が見事に宙を舞う。
静寂。
灰まみれの勇者が立ち上がる。
「……やっぱ、俺、料理向いてないのかもしれない」
魔王は頭を押さえた。
「“かもしれない”ではない。確定だ」
「……はい」
聖剣がぽつりと呟く。
(……だが不思議と、この騒がしい日々が心地よい)
勇者、二代目スライム焼き屋店主をわずか一日でクビ。
魔王城の平和は、今日も彼の爆発音で守られている。




