第57話 勇者よ……レシートを探すなよ
市場での買い物をなんとか終えた勇者。
だが、彼の“前世日本”の記憶がまたも発動――。
魔王城の厨房。
勇者はテーブルの上に買ってきた野菜と肉を並べながら、真剣な顔をしていた。
「ふむ……よし、買い物は完璧。
――で、レシートは…」
魔王が眉をひそめる。
「れしーと?」
「え? いや、あの……買った証明書的な? 紙のやつ! 合計金額が書いてあって、家計簿とかに使うやつ!」
「そんなもの、この世界にあるわけがなかろう」
「ええぇぇ!? じゃあどうやって支出管理するの!? 経費計算とか!?」
「経費?」魔王の声が一段低くなる。
「勇者、まさか我の財布で“経費精算”などと言い出すつもりではあるまいな?」
「え? え、あっ、違う違う! いや、その……職業病みたいなもので!」
聖剣が壁から冷静に言う。
「勇者よ。ここでは“経費”ではなく“お駄賃”が妥当だろう」
「ひどっ!?」
それでも勇者は諦めず、袋の中をひっくり返し始めた。
「絶対どこかにあるはず……! 異世界でもIT導入は進んでるはず……!」
「IT?」魔王が小首を傾げる。
「“異様に取る”の略とかか?」
「違う! インフォメーション・テクノロジー!!」
「呪文か?」
勇者は頭を抱えた。
「くそぉぉ……文明の格差がここまでとは……!」
そのとき、厨房の奥から老竜が顔を出す。
「おぉ、レシートならあるぞぉ」
「え!? 本当に!?」
「ほれ」
老竜が手渡したのは、干からびたトカゲの皮に炭で書かれた買い物メモだった。
「……これ、領収証ってより遺跡の碑文だろ!!」
魔王は茶をすすりながら、静かに呟いた。
「勇者よ。お前がこの国で一番の異物だということを、改めて実感した」
「えぇぇぇぇぇ!?」
勇者、レシート文化を異世界に持ち込もうとして撃沈。
文明の差はあれど、懐事情はどこも厳しいらしい。
次回――「勇者よ……節約を覚えろ」。
居候、ついに金銭感覚を得る!?




