第56話 勇者よ……買い物を一人でこなせよ
掃除で騒ぎを起こした勇者!
次に魔王から与えられたお仕事は――「買い物」。
だが、前世日本の常識が災いして、またしても混乱する事になったようです。
城下町の市場。
袋を抱えた勇者が、目をぎらぎらさせて立っていた。
「よし、今日は一人で買い物を任された。絶対やり遂げて、魔王に褒められるんだ!」
野菜売りの屋台に近づく勇者。
「えっと……ピーマンとナスを――」
「いらっしゃい! 今日の野菜はどれも採れたてで鮮度最高だよ!」
「じゃあ……これ一つください!」
勇者はピーマンを指さす。
「一つ? ……袋単位でしか売ってないけど」
「え、バラ売りないの!? 日本のスーパーなら一個から買えたのに!」
八百屋は怪訝な顔をする。
「スーパー?」
「あっ、いや、気にしないで!」
次は肉屋。
「すみませーん、鶏むね肉100グラムください!」
「グラム……?」店主は首をかしげた。
「うちは“塊”でしか売ってねぇよ坊っちゃん。」
「嘘だろ!? 前世じゃスーパーで“100グラムいくら”って当たり前だったのに!」
あたふたする勇者の背後で、聖剣がため息をついた。
「勇者よ……ここは異世界だ。今更前世の基準を持ち出すな」
結局、買ったのは大量の野菜と肉の塊。袋が両手からはみ出している。
「うぅ……褒められるどころか、これ運ぶだけで死にそう……」
その時、袋が破け、ピーマンがコロコロと転がった。
「クッソ! ピーマンが逃げたぁぁ!」
市場の子供たちが笑いながら拾ってくれる。
「お兄ちゃん、不器用だねー」
「きっと馬鹿なんだよ」
「うるせぇ! 俺は元・勇者なんだぞ!馬鹿なんじゃない!」
勇者は顔を真っ赤にしながら、なんとか荷物を抱え直した。
市場の喧騒の中、聖剣は静かに呟いた。
(……また“勇者”より“人間”らしい一面を見せおったな)
勇者、買い物で大混乱!
日本の常識は通じず、異世界の市場で四苦八苦。
次回――「勇者よ……領収書は何処だ」。
ないものを探す、元勇者の旅路はまだまだ続く!




