第54話 勇者よ……幸せになれよ
給食トラウマを思い出しつつも、少しずつ“人としての生活”を取り戻していく勇者。
そんな彼に、魔王が初めて語る“願い”とは――。
夕食を終えた後の静かな食堂。
片付けを終えた勇者は、椅子に腰を落とし、どこかぽつりと呟いた。
「俺さ……小さいころからずっと言われてたんだ。
“お前は魔王を殺すことにだけ価値がある”って。
魔王を倒すための兵器なんだ、って。
戦う以外のことを考えると叱られて、罰を受けて……。」
勇者は苦笑して肩をすくめる。
「前世でも親からは勉強ばかり。学校にも馴染めなくて結局引きこもりになっちまった。だから、こうして普通に飯食ったり掃除したりしてるとさ……なんか変な気分になるんだよ。
俺って、こんな時間を過ごしていいのかなって」
魔王は黙って湯気の立つ茶を口に運んだ。
しばしの沈黙のあと、低く穏やかな声が響く。
「……だからこそ、お前は不器用なのだな。
だが、勇者よ。お前の価値は“我を殺すこと”にはない」
勇者は目を見開いた。
「……え?」
「お前は勇者の名を冠した兵器などでは断じてない。
ここで、人として生きればよい。
必要なのは戦いではない――幸せになることなのだろうな」
勇者は、ぽかんと口を開けたまま動けなかった。
やがて、ゆっくりとうなずき、照れくさそうに笑う。
「……そうか。俺、幸せになっていいんだな」
聖剣は静かに目を閉じた。
(……勇者が“勇者”ではなく“人間”として生きる日が、ようやく訪れるのかもしれんな)
窓の外では、魔国の夜空に星が瞬いていた。
勇者君、初めて“幸せ”という言葉を意識した。
今回は魔王の本音が語られ、居候生活は少しずつ新しい形へ。
次回――「勇者よ……魔王城を掃除しろよ」。
しんみりの後にはやはり!日常ギャグでしょ。




