第53話 勇者よ……給食当番を思い出すなよ
魔王に、随分と大きな鍋とおたまを前に、勇者は青ざめていた。
「な、なんで俺が配膳係なんだよ……」
「居候(ニート&ヒモ)だからだ」魔王が当然のように言い放つ。
「ぐぅ……! でも、これ……嫌な記憶が……」
勇者は震える手でおたまを握った。
「前世の日本じゃ、給食当番っていう地獄があったんだ。
みんなの前で配るんだけど、ちょっとでもこぼすと“汚ぇ!”とか言われるし……量が偏っても“多い少ない”で揉めるし……」
聖剣が興味深そうに光った。
「なるほど、配膳は戦場だったわけだな」
「そうだ! 心の傷がまだ癒えてねぇ!」
勇者は震えながらスープをよそった。
だが――。
「熱っ! うわぁぁぁ!」
鍋からすくったスープを、見事に床へぶちまけた。
「……」食堂の空気が凍る。
「やっぱり地獄だぁぁぁぁ!」勇者は膝から崩れ落ちた。
魔王が額を押さえてため息をつく。
「勇者よ。給食当番ごときで泣くな」
「俺には戦場より怖ぇんだよ!」
老竜がテーブルの端でぼそっと呟いた。
「……まぁ、誰でも初めは失敗する。気にせずやり直せ」
「老竜……!」
勇者は立ち上がり、もう一度おたまを握った。
「俺、今度こそ配ってみせる!」
――だがその瞬間、背後のスピーカーがピッと光った。
流れ出すのは、なぜか給食の時間のピアノBGM。
「やめろぉぉ! トラウマ蘇るぅぅ!」
魔王は茶をすすりながら、薄く笑った。
「ふむ、悪くない余興だな」
---
勇者、給食当番トラウマ再燃。
しかし少しずつ、過去と向き合い始めている。
次回――「勇者よ……幸せになれよ」。
魔王が初めて口にする“願い”とは――?
勇者、給食当番トラウマ再燃。
しかし少しずつ、過去と向き合い始めている。
次回――「勇者よ……幸せになれよ」。
魔王が初めて口にする“願い”とは――?




