第41話 勇者よ……日常を守れよ
魔王に「勇者ではなく人として生きろ」と言われた勇者。
そんな彼が次に挑むのは――剣でも戦でもなく、日常の小さな試練だった。
魔王城の台所。
フライパンを前に、勇者は腕を組んでいた。
「ふむ……これが“目玉焼き”というやつか」
魔王が椅子に座って頬杖をつく。
「勇者、簡単な料理ぐらいは覚えておけ。人として生きるのならな」
「わ、分かってる!」勇者は卵を掴み、殻を割ろうとする。
――ベチャッ。
「ぎゃあああ! 殻ごと全部フライパンに入ったぁぁ!」
聖剣がすかさずツッコミを入れる。
「勇者よ、それではスクランブルエッグですらないぞ」
「うるさい! 俺だって初めてなんだよ!」
勇者は必死に殻を取り除こうとするが、手はべたべた。
その時、階下から老竜の怒鳴り声が響いた。
「おい! さっきから何の爆音じゃ!? また運動会のBGMか!?」
タイミング悪く、壁のスピーカーがピッと光る。
――流れ出す行進曲。
「ちがーう! 俺はただ目玉焼き作ってるだけだぁぁ!」
「どこがだ」魔王が呆れ声を上げる。
結局、勇者の作ったものは黒こげの謎の塊になった。
それでも、魔王は一口食べ、しばらく黙り――そしてぼそりと言った。
「……味は最悪だが。まあ、“努力”だけは伝わった」
勇者は照れくさそうに頭を掻いた。
「へへ……俺、戦い以外のことでも役に立てるようになりたいんだ」
聖剣が静かに頷く。
「それでよい。日常を守ることこそ、人としての最初の一歩だ」
勇者はこげたフライパンを見下ろしながら、苦笑した。
「よし、次は絶対成功させてやる。……幸せを守るためにな!」
勇者、初めて“剣以外の挑戦”をする!
結果は失敗でも――心には小さな熱いが芽生えた。
次回――「勇者よ……城下町に出るなよ」。
居候勇者、初めての社会体験へ。




