第38話 勇者よ……肩書きを増やすなよ
観念して“居候”を受け入れた勇者。
しかし城下と城内では、彼の肩書きが勝手に増殖していく――。
魔王城の居間。
勇者はソファに沈み、天井を見つめながらぼやいた。
「さ……最近さ。俺の肩書き、“勇者”より“居候”って言われる方が多くない?」
「事実だ」魔王は読んでいた書類をぱたんと閉じる。
「否定してよ!」
壁際の聖剣が、ためらいなく追い打ちをかけた。
「勇者兼、居候(ニート&ヒモ)、掃除係、料理失敗常習犯、プリン……」
「最後は言うなーー!! てか括弧書きやめろ! 傷つくから!」
勇者が枕を抱えて転げ回っていると、門番が慌てて駆け込んできた。
「陛下! 城下の掲示板に新しい通達が!」
「内容は?」
「“勇者殿の通り名:魔王の同居人。職能:居候(ニート&ヒモ)”……と」
「職能て何!?」勇者が跳ね起きる。
「職務経歴に記載できるのでは?」と聖剣。
「できるかぁぁ!」
魔王は額に手をあて、重々しく言った。
「勇者。肩書きは外から勝手に貼られるものだ。だが――内側で決める“役割”は、自分で選べる」
「役割……?」
魔王は一枚のメモを差し出す。
「当面の“役割”として、三つ用意した。
一、留守番。
二、来客の湯茶出し。
三、買い物リストの読み上げ係(勝手に追加するな、の意)」
「三つ目が一番難しい気がする……!」
「読み上げるだけだ」
「俺の自制心が試されるやつじゃん!」
苦い顔をしつつも、勇者は紙を受け取り、ふと表情を緩めた。
「……でも、“役割”って言われると、ちょっと頑張ろうって気になるな」
「当然だ。お前は“勇者兼”だが、我が城では“仲間兼”でもある」
そのとき、廊下から小さな声。
「ごめんくださーい、回覧板です」
近所の老竜が顔を出した。
「お、おう! い、いらっしゃいませ!」
勇者は慌てて立ち上がり、湯を沸かし、茶器を並べ、メモを見ながら深呼吸。
「えっと……本日の茶菓子は“余計な物を出すな”……じゃなくて、干し果実です!」
「言い直したな」魔王が小さく笑う。
老竜が湯呑みを受け取り、目を細めた。
「お、今日はちゃんと挨拶できたじゃないか、同居人」
「……“勇者”って呼んで」
「じゃあ――勇者兼、居候(ニート&ヒモ)」
「やめてぇぇ!」
笑いがこぼれ、居間にあたたかい空気が流れた。
勇者は照れ隠しのように鼻をこすり、そっと湯釜の火加減を落とす。
(……肩書きがどうあれ、ここで誰かの役に立てるなら――それでいいのかも)
魔王が立ち上がり、短く告げる。
「本日の役割、合格だ」
「マジで!? やった!」
「ただし、プリンに手を出したらすべて取り消しだ」
「そこだけは絶対厳しいーー!」
勇者、肩書きをますます盛られる。
ついに「居候(ニート&ヒモ)」が定着し、城下では「魔王のヒモ」説まで浮上。
……勇者の威厳? そんなものは最初から無かった。
だが――魔王城で過ごす日々は、勇者として育てられた彼にとって“初めての普通”でもある。
次回――「勇者よ……たまには役に立てよ」。
居候勇者の一歩が、はたして前進となるか、それとも転倒か。
どちらでしょうね




