第29話:勇者よ……掃除でサボるなよ
家賃の代わりに“労働”を命じられた勇者。
初任務は風呂掃除――だがサボりは精霊とBGMが即バレさせる。
予約投稿の日程を間違えていたのですが、修正面倒臭いので本日は2話投稿です。
魔王城の浴場。
勇者は桶を片手にぶつぶつ言っていた。
「はぁ……俺がなんで風呂掃除なんか……勇者だぞ俺」
「居候勇者の間違いだ」魔王の声が背後から飛ぶ。
「サボれば即刻追い出すからな」
「へいへい、やりゃあいいんだろ」
勇者は桶に水を張り、適当に床にばしゃーっと流した。
スポンジで数回こすってから、すぐに満足顔。
「よし! ピカピカになった!」
その瞬間、浴場の隅で声が響く。
「……まだ汚れておるぞ」
「ひっ!?」
覗き込むと、水の精霊が泡まみれで立っていた。
「勇者。お主、手抜きしたな?」
「いや、ちゃんとこすったし!」
「三回で終わる掃除などない!」
精霊が指を鳴らすと、勇者の全身に水がぶっかけられた。
「ぶはぁっ!? やめろぉぉ!」
脱衣所から聖剣が呆れ声を投げる。
「勇者、サボりはバレるに決まっておろう」
「うるさい! お前は壁から見てるだけじゃねーか!」
勇者が水浸しで逃げ回っていると、浴場の壁に埋め込まれたスピーカーがピッと光った。
――流れ出す運動会BGM。
床に水が広がるたび、まるでプールサイドみたいに明るく響く。
「なぁ魔王! 掃除中にこれはマジでテンション狂う!」
「むしろよいではないか。やる気を出せ」
「今、体育の授業じゃねぇんだぞぉぉ!」
魔王が顎に手を当てて考え込む。
「……ふむ。これはシャトルランの音楽にはならんのか?」
「ヤメテ! トラウマホリオコサナイデ! フラグタテナイデ!」
勇者が必死で叫んだ瞬間――
「〜♪」
BGMが一瞬切り替わり、独特のテンポが浴場に鳴り渡った。
「お? 変わった……って変わってんじゃねぇかぁぁ!!」
「……対応しておるな」魔王は少し満足げだ。
「対応すんなぁぁ!! 俺の心が削られてくんだよぉぉ!!」
精霊がホイッスル(どこから出した)を鳴らす。
「よし、シャトル“拭き”開始! 端まで拭いて戻る、番号!」「いちっ!」「声が小さい!」
勇者は半泣きで往復拭き。泡が鳴って、BGMが煽る。
十分後。
床も壁も湯縁もぴかぴか、勇者はぜえぜえ。
聖剣が少し同情の声を落とした。
「……まあ、仕上がりは見事だ」
「俺も見事に磨り減ったけどな……」
魔王が肩越しに浴場を見渡し、短く頷く。
「合格。だがサボりは不合格。覚えろ――濡・擦・流、そして確認だ」
「確認って追試みたいに言うなぁ……」
スピーカーが名残惜しげに「〜♪」と小さく鳴り、勝手にフェードアウトした。
勇者は天井をにらみつける。
「マジでこのBGM、どのモードまで入ってんだよ……」
「全部では?」
「やめろ変なフラグを立てんな!!」
サボりは精霊に、心はBGMに鍛えられる。
家賃労働――初日から地獄の“シャトル拭き”。
次回は――「勇者よ……料理で失敗するなよ」。
火の扱いと味付け、そして“鳴り止まない音”。
これで済ませてあげる魔王マジで優しい




