第16話:勇者よ……夜食を勝手に作るなよ
深夜に腹を空かせた勇者。
台所で夜食をこっそり作ろうとするが、魔王城の夜食ルールを知らなかった――。
真夜中の魔王城。
寝静まった廊下を、勇者は足音を忍ばせて歩く。
「……腹減った。シチューの残り、あったよな」
台所に灯りをつけ、鍋のふたを開ける。
ふわっと漂うシチューの香りに思わずゴクリ。
「よし、温め直して……パンも焼いて……」
勇者はフライパンを出し、油をドボッ。
じゅわあああっ、と派手な音が響く。
「おい勇者、うるさい」
聖剣が眠そうにぼやいた。
「夜中だぞ。火は使うな」
「ちょっとくらいいいだろ。腹減ったんだよ」
その瞬間、コンロ脇の魔法感知石が光った。
《夜食検知――違反通知送信》
「やっべ!? 通知って誰に!」
「決まってる。魔王だ」
数秒後、扉がギィと開く。
寝間着姿の魔王が立っていた。
「勇者……夜食を勝手に作るな」
「……おはよう?」
「今は“おやすみ”だ」
魔王は冷蔵庫を開け、左の棚を指差す。
「夜食用はここだ。火も音も要らん」
中には整然と並ぶ夜食セット。
サンドイッチ、ゆで卵、プリン、麦茶。
「最初からあったのかよ!」
「当然だ。夜に騒音を出さないためだ」
勇者はプリンを狙うが、魔王に止められる。
「それは我輩の分だ」
「なんで魔王だけ!?」
「家賃を払っていない居候にプリンの権利はない」
「理不尽ぃぃ!」
勇者が渋々サンドイッチを頬張ったそのとき――
台所のスピーカーがピッと光った。
――流れ出す運動会BGM。
しかも小さな音量で、延々とループしている。
「なあ魔王……これ夜中に流れる設定だろ」
「……違う。最近おかしくなっていて、止めてもまた鳴る」
「バグってんのかよ!? 直せないの!?」
「試したが無理だ」
「一番怖いのそこだろぉぉ!」
勇者、夜食のつもりが深夜のBGM地獄。
夜中の腹ごしらえもルール次第、そして直らないスピーカーは謎のまま……。
次回は――「勇者よ……洗面所で歯磨きしろよ」。




