第12話:勇者よ……討伐忘れてないか?
討伐に来たはずの勇者。
だが気づけば二週間、魔王城で生活。
ついに魔王が問いかける「本来の目的」とは――。
朝の魔王城ダイニング。
トーストの香り、魔界新聞のページをめくる音、湯気立つコーヒー。
その光景の中に、勇者はごく自然に溶け込んでいた。
「……勇者」
魔王がカップを置き、低い声で切り出す。
「お前、討伐に来たのではなかったか?」
「ん? ああ、忘れてないぞ」
勇者はパンをかじりながら軽く答える。
「忘れてないと言いながら、もう二週間もここに居る」
「いやぁ、その……理由がいろいろあってさ」
勇者は指を折って数える。
「一、飯がうまい。
二、風呂が広い。
三、洗濯機が最新式。
四、宿代がタダ」
「最後が一番大きいだろ」
魔王は額を押さえた。
聖剣が壁に立てかけられたままぼそりとつぶやく。
「勇者、使命を忘れるな。魔王を討つために来たのだぞ」
「わかってるよ! でもさ、実際ここで暮らしてると――討伐より生活ルールで叱られる方が多いんだ」
「……それは我輩が“生活の魔王”だからだ」
「いや確かに! 掃除も炊事も、俺よりずっと上級職だし!」
魔王はコーヒーをすすり、帳簿を開いた。
「ならばルールを追加する。
一、家賃を払え。
二、掃除当番をこなせ。
三、討伐を忘れるな」
「三番目が“おまけ”みたいに聞こえるんだけど!?」
「当然だ。……我輩は魔王だからな」
勇者は残りのトーストを食べ切り、真剣な顔をした。
「よし、討伐は忘れない。でも同居も続ける」
「両立する気か?」
「する! 俺は勇者で、居候だ!」
魔王はしばし沈黙し、肩を落とした。
「……なら、まずは我輩が設定したスピーカーの自動再生をお前が直せ。場所は後で教えてやる。
あれのせいで“討伐”の雰囲気が台無しだからな」
ちょうどその瞬間、壁のスピーカーがぴくりと光った。
――おなじみの運動会BGMが元気よく流れ出す。
「今だって鳴ってるじゃん!」
「あとで教える」
「今教えろよぉぉ!!」
勇者、討伐の目的を再確認……のはずが、結局居候続行を宣言。
魔王もあきらめ半分。
次回は――「勇者よ……家賃って知ってるか?」。
ついに生活費問題が表面化!




