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『勇者よ、常識を見ろ』シリーズ  作者: 深森あい


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101/106

第101話 勇者……温泉から出て働く

魔王領・温泉施設。

今日も今日とて、湯けむりが立ちのぼっていた。


勇者は――

檻の中 である。


しかも温泉檻。


「……なぁ魔王。これ人道的にどうなん?」


檻の外で腕を組む魔王は、極めて冷静だった。


「お前が三分前、

『ちょっと配管見てくる』

と言ったからだ」


勇者「見に行こうとしただけじゃん!」


魔王「それを“労働”と言う」


聖剣『ワロタ』



---


◆視察団、到着


そのとき、城門の方から騒がしい声が聞こえてきた。


「つ、着いたぞ……!」

「ここが魔王領……!」

「本当に温泉が……!」


側近が駆け込んでくる。


「魔王様!

 人間国より 温泉視察団 が到着しました!」


勇者「来た!?!?

 ちょっと待って俺今檻!!」


魔王「問題ない」


勇者「大問題だよ!!

 俺、捕虜に見えるよ!!」


魔王「“過労から保護されている英雄”だ」


勇者「言い方だけでどうにかしようとするな!!てか動物園みたいじゃん!」



---


◆視察団の誤解が加速する


視察団の一行は、遠巻きにその光景を見た。


勇者が檻の中で、

気持ちよさそうに湯に浸かっている。


代表A「……勇者様?」

代表B「檻に……?」

代表C「いや、あれは……動物保護施設?」


魔王が一歩前に出る。


「安心せよ。

 勇者は“自主的に”療養している」


勇者「してない!!!」


魔王「黙れ」


勇者「ハイ……」


視察団「(……飼育されてる……)」



---


◆視察団、温泉に入る


魔族の案内で、視察団も温泉に浸かる。


「……はぁ……」

「……これは……」

「身体が……温まる……」


代表Aが震える声で言った。


「魔王殿……これは……

 人間国の療養院より遥かに上 だぞ……」


魔王「当然だ。

 勇者を回復させるために整えたからな」


勇者「俺基準なの!?」


視察団「(勇者様……大切にされすぎでは……?)」



---


◆勇者、余計なことを言う


勇者が湯気の中から顔を出す。


「なぁ、みんな。

 働きすぎるとさ、

 “自分が何者か”わかんなくなるぞ?」


視察団「……」


「俺、前は“勇者”しかなかった。

 でも今は――

 温泉掃除も、飯の仕込みも、

 何もしない日もある」


魔王「今は“何もしなくて良い日”だ」


勇者「それな!」


視察団の一人が呟く。


「……勇者様は……

 もう“勇者”じゃないんですね……」


その空気を――

魔王が、肯定も否定もせず受け止めた。



---


◆人間国に持ち帰られる“報告書”


その夜、視察団は人間国へ戻る。


報告書のタイトルはこうだった。


> 『魔王領における勇者療養および温泉政策について』




追記:


> ・勇者は過労状態から回復中

・魔王領は労働環境が異常に良い

・戦争より温泉の方が国益が高い可能性あり




王城では、王が頭を抱えた。


「……なぜそんなに条件が良いんだ……」



---


◆魔王城・夜


勇者は檻の中で伸びをした。


「……なぁ魔王。

 俺、明日こそ何もしないからさ」


魔王「それがお前の義務だ」


勇者「義務なのか……」


聖剣『勇者からしたら世界で一番難しい義務だな』


勇者は苦笑して、湯に沈んだ。


「……ま、悪くないか」


魔王は小さく頷いた。



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