第101話 勇者……温泉から出て働く
魔王領・温泉施設。
今日も今日とて、湯けむりが立ちのぼっていた。
勇者は――
檻の中 である。
しかも温泉檻。
「……なぁ魔王。これ人道的にどうなん?」
檻の外で腕を組む魔王は、極めて冷静だった。
「お前が三分前、
『ちょっと配管見てくる』
と言ったからだ」
勇者「見に行こうとしただけじゃん!」
魔王「それを“労働”と言う」
聖剣『ワロタ』
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◆視察団、到着
そのとき、城門の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「つ、着いたぞ……!」
「ここが魔王領……!」
「本当に温泉が……!」
側近が駆け込んでくる。
「魔王様!
人間国より 温泉視察団 が到着しました!」
勇者「来た!?!?
ちょっと待って俺今檻!!」
魔王「問題ない」
勇者「大問題だよ!!
俺、捕虜に見えるよ!!」
魔王「“過労から保護されている英雄”だ」
勇者「言い方だけでどうにかしようとするな!!てか動物園みたいじゃん!」
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◆視察団の誤解が加速する
視察団の一行は、遠巻きにその光景を見た。
勇者が檻の中で、
気持ちよさそうに湯に浸かっている。
代表A「……勇者様?」
代表B「檻に……?」
代表C「いや、あれは……動物保護施設?」
魔王が一歩前に出る。
「安心せよ。
勇者は“自主的に”療養している」
勇者「してない!!!」
魔王「黙れ」
勇者「ハイ……」
視察団「(……飼育されてる……)」
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◆視察団、温泉に入る
魔族の案内で、視察団も温泉に浸かる。
「……はぁ……」
「……これは……」
「身体が……温まる……」
代表Aが震える声で言った。
「魔王殿……これは……
人間国の療養院より遥かに上 だぞ……」
魔王「当然だ。
勇者を回復させるために整えたからな」
勇者「俺基準なの!?」
視察団「(勇者様……大切にされすぎでは……?)」
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◆勇者、余計なことを言う
勇者が湯気の中から顔を出す。
「なぁ、みんな。
働きすぎるとさ、
“自分が何者か”わかんなくなるぞ?」
視察団「……」
「俺、前は“勇者”しかなかった。
でも今は――
温泉掃除も、飯の仕込みも、
何もしない日もある」
魔王「今は“何もしなくて良い日”だ」
勇者「それな!」
視察団の一人が呟く。
「……勇者様は……
もう“勇者”じゃないんですね……」
その空気を――
魔王が、肯定も否定もせず受け止めた。
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◆人間国に持ち帰られる“報告書”
その夜、視察団は人間国へ戻る。
報告書のタイトルはこうだった。
> 『魔王領における勇者療養および温泉政策について』
追記:
> ・勇者は過労状態から回復中
・魔王領は労働環境が異常に良い
・戦争より温泉の方が国益が高い可能性あり
王城では、王が頭を抱えた。
「……なぜそんなに条件が良いんだ……」
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◆魔王城・夜
勇者は檻の中で伸びをした。
「……なぁ魔王。
俺、明日こそ何もしないからさ」
魔王「それがお前の義務だ」
勇者「義務なのか……」
聖剣『勇者からしたら世界で一番難しい義務だな』
勇者は苦笑して、湯に沈んだ。
「……ま、悪くないか」
魔王は小さく頷いた。
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