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運命なんて信じない

 明日は満月…先日の夜会で相手を見つけるはずが、予期せぬ事態で見事に崩れてしまった。


 一応何人かとは話を交わしてみたが、いい感じになってくると決まってティルが割り込んでは、その場の空気をぶち壊して去って行く。自分は両手に令嬢をはびこらせておいてだ。不愉快極まりない。


 こうなったら、レウルェに……いや、早まるのは良くない。あの精霊から恩を買ったが最後、後々が怖い。ほくそ笑みながら無理難題押し付けられるのが目に見えてる。


 リディアは机に突っ伏して、溜息混じりに頭を抱えた。


「何をそんなに考え込んでんだ?」


 急に声がかかり飛び起きた。振り返ってみると、窓枠に足をかけて部屋に入ってくるティルだった。


「これはこれは…王子様がこんな貧乏屋敷に何用で?」

「棘のある言い方だなぁ」


「よっ」と軽やかに部屋に入ってくるティルをリディアは蔑む様に睨みつけている。


「最近の王子様って盗人の真似事までするんですか?随分と手癖の悪い…」

「飛躍しすぎだって。人の話を聞けって教わらなかった?」

「聞くまでもない」


 一刀両断するリディアだが、ティルは構わずソファに腰掛けた。まあ、こちらも聞きたいことがあるのは確かだしと思い直し、向かい合うように座った。


「……その髪色と目の色、どうなってんの?」

「ああ、これ?」


 まずはリディアが先制。正直なところ、ピアスが無かったら絶対に気が付かなった。


「仕掛けは単純さ」


 ティルが付けていた指輪を外すと、髪の色と目の色が一瞬にして変わった。本当に単純な仕掛けに、最早驚きもしない。


「そこまでして、この屋敷に忍び込んだのは?言っとくけど、うちに価値のあるものなんて何も無いわよ?」

「だから、盗み目的じゃないって」


 外した指輪をはめながら、苦笑いを浮かべた。


「父上…陛下から、あんたの事聞いてたんだよ。精霊に呪いをかけられた稀に見る奇特な奴がいるって」

「……奇特……」

「面白い奴だって聞いて興味が湧いてね。ちょっと忍び込んで見たんだけど」


「まさか、あんな場面に遭遇するとはね」そう付け加えてきた。


 そんなのこちらだって同じこと。あの時の男が王子様だって分かっていたら、縋る事なんてしなかった。


 まさか王子が忍び込んでくるなんて、そんな冗談でもないような話自分の身に起こるなんて誰が想像する?ティルもティルだ。王子ならそれっぽい装いで忍び込んでくれればいいものを……これじゃ、完全に不審者だ。まあ、だけど、今回の事で一線を越えなかった理由が判明した。


 王子と一線を越えたとなったらそれこそ大惨事。いくら治療の一環で、お互いに気持ちなんて微塵もなかったと言った所で、信用する者は皆無。下手をすれば、王子を唆した売女としてしょっぴかれかねない。その辺は機転を利かせてくれたティルに感謝する。


「別に俺は一線を越えても良かったけど?」


 サラッととんでも発言を言ってくれる。


「あんたが良くても私が良くないわよ。まず、貴方とは住んでる世界が違うの」

「別に構わないだろ。父上もお前の事を気に入ってるし、俺もお前の事を気に入ってる」


 置いた口が塞がらないとはこの事。


 ああ、これはあれだ。一度身体を触れ合った瞬間から自分のものだと言い張る典型的な勘違い男と同じ。本当……冗談もほどほどにしてくれ。


「一度寝たぐらいで彼氏面はやめてください」

「その台詞、普通逆じゃね?」


 クスクス笑ってまともに取り合おうとしない。


「言ったろ?運命の相手と出逢う前兆だって。俺はお前が運命の相手だと思ってる」

「なに御伽噺のようなことを……」


 呆れるように言い捨てると、ティルはリディアの傍により顔を近づけてくる。息がかかりそうなほどに顔が迫り、思わず目を閉じてしまった。傍から見れば、キスをせがむような姿になっている事にリディアは気付かない。


「ふはっ、なに?期待してるの?」

「──んなッ!!」


 揶揄われたと気づいた時には、ティルは耐えられないとばかりに腹を抱えて笑っていた。リディアは悔しくて恥ずかしくて、この場から消えてしまいたいと身を縮ませ真っ赤に染まった顔を覆った。




 ***




 相手が見つからないまま迎えた何度目かの満月の夜。


 今日ばかりは何があろうと絶対に自分の部屋に近づくことを禁止した。二コルは不満そうにしていたが、たまにはそう日もあるだろうとマックス達に宥められて何とか納得してくれた。まさか、貞操が侵害されるカモなんて露ほどもに思っていないだろう。


「……はぁ……」


 熱を帯びた甘い吐息が静まり返った部屋に響く。いつものように布団に包まり、朝が来るのをジッと堪える。


 身体が疼く…堪らなく熱い…


「キツそうだね」


 手馴れたように部屋に忍び込んだティルが、ポンッと丸くなった布団を叩いて顔を出すように促す。


「………何しに…来た……」


 苛立ったように睨みつけるが、その目は蕩けていて威嚇にもならない。


「俺が必要だと思ってさ」

「ッ!!」


 ティルは顔だけ出しているリディアの頬を優しく撫でた。それだけで、身体に電流が走ったように痺れる。必死に堪えようとしているのに、この男は煽ることしかしない。


「同じ過ちは犯さない…絶対に」

「ふ~ん?」


 断固とした態度で応対するが、ティルはお構いなしに布団の上から身体を撫でるように触れてくる。布団越しでも、反応する身体に情けなくなってくる。


 正直なところ、これ以上何かされたらヤバい。まだ自我が保ている内に、この男を追い出さなければ…!!その一心で引き離そうとした。


「いい加減素直になった方がいい。俺が欲しいって言いな」


「……誰が……!!」そう口にしようとしたが、その言葉は口を塞がれて発することが出来なかった。

 唇を割って舌が入ってくる。頭では抵抗しなければと思っているのに、身体が言うことを聞いてくれない。次第に頭は真っ白になり、考える事を止めた。


「ほら、どうしたいか言ってみな?」


 もう、抗えない…


「ティルが…欲しい」

「お嬢様のお望みのままに」


 乱暴に服を脱ぎ捨て、覆い被さってくるティルの首に腕を回し、自らキスをした…


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