一夜明けて…
「ふぁぁ~…」
大きなあくびをしながら伸びをすれば、朝が来たなと実感する。
「……………」
ボーとしながら、窓の外を眺めた。カラッと晴れた爽やかな朝。元気よく飛び回る鳥たち。そして、思い出す昨夜の恥ずかしい記憶の数々……
ボボボボッと一瞬で全身真っ赤に染まっていく。
羞恥心で顔を覆い、穴があったら埋まりたいぐらいの気持ちで一杯だが、身体は異様に軽くてスッキリしている。こんなに清々しい気分で目が覚めたのはいつぶりだろう。
昨晩を思い返してみても、反省はするが後悔はない。
成り行きとはいえ、これでレウルェとの契約は完遂。リディアはめでたく自由の身。
子供に父親のことを聞かれた時には答えに困ると思うが、背に腹はかえられない。先の事を今から考えたって仕方がない。生きていれば、多少の犠牲は付き物だ。
「気を取り直して、お風呂にでも…」
ベッドから降りようとした時に、ふと、自分の太腿に目がいった。そこには、まだしっかりと契約印が刻まれている。
「は?」
***
「ちょっと!!どうなってんの!?騙したのね!!」
朝食もそこそこにリディアはレウルェの元を訪れ、顔を見るなり怒鳴りつけた。
「なんじゃ、藪から棒に」
「なんじゃじゃないわよ!!これ見てよ!!消えないじゃない!!」
いつものように寝転びながら気怠げに言われた。リディアは恥じらいなど何処吹く風で、大胆にもスカートを捲り上げて、契約印を見せつけながら昨晩の事を話して聞かせた。
「あんたが望むようにしてやったのよ!?なのに消えないってどういう事よ!!」
リディアの怒りは収まることを知らない。
「ふむ……そなた、胎に子種を注いだか?」
「え?そんなの当然…………あれ?」
冷静なレウルェが指摘すると、リディアは額に汗をかき始めた。今一度、よく思い出してみる。……が、途中からの記憶がない。
『熱を冷ますだけ』
そう男が言っていたのは覚えてる。
「我が見る限り、そなたはまだ生娘ぞ?」
「そ、そんなはずない!!」
……と思う。
正直、記憶があやふやで、断言出来るかと聞かれたら言葉に詰まる。
「その男は熱を冷ますだけと言うたのじゃろ?最後までするとは公言しとらん」
「あれ……?」
リディアはだんだんと不安になってきた。
「熱を放出するだけならいくらでもやりようがある。ケツの青いそなたには分からぬやもしれぬがな」
馬鹿にする様に笑われて、リディアは恥ずかしさと悔しさで顔を真っ赤にして体を震わせている。
「まあ、相手が見つかっただけでも上出来じゃ。次は上手くやれ」
他人事のように、しれっと言われた。
(誰のせいだとッ!!)
……止めた。この人に怒りをぶつけても、怒りが増すだけだ。
リディアはムッとして、怒鳴りつけようとしたがグッと言葉を飲み込んだ。
フーと一息吐いて、気持ちを落ち着かせから言葉を続けた。
「相手は不審者だって言ったでしょ?次は無いわよ」
「そんなものは分からんぞ?男という生き物は常に新鮮さを求める。手を出した獲物が珍品ならば尚更じゃ。案外、癖になっておるかもしれぬぞ?」
「……………あたしゃ、ゲテモノか?」
随分と失礼な事を言われて、レウルェを睨みつけるが「例えじゃ例え」と生返事が返ってきた。
仮にまた来た所で、不審者には変わりない。次は衛兵に突き出してやる。
「そなたは、恩を仇で返すのか?」
呆れるように言われた。恩があろうがなかろうが関係ない。不審者は不審者だろ。
「まったく、何故そのように捻くれて育ってしまったのかのう」
この場合、育ち云々ではないと思う。
「まあ、どうでもいいが、いい加減我を安心させてくれ」
大きなあくびと共に言われた。
高みの見物とはこう言う事なんだろう。本当、憎らしい。
(駄目だ。ここにいると、苛立ちで神経が削られる…)
リディアはスッと立ち上がると、黙ってレウルェに背を向けた。
「なんじゃ?もう帰るのか?」
つまらなそうに問いかけてきた。
リディアは少しだけ顔を見せると「ベッ」と舌を出し「ふんっ」と鼻息荒く、その場から去って行った。
「くくくくッ…」
遠くなるリディアの背中を見ながら、レウルェは堪らず笑いだした。
「まだまだ子供で困る」
小馬鹿にするような言い方だが、その目は愛おしいものを見るように暖かいものだった。