第11夜【穴】その2
ついに穴の正体が解き明かされる。
【穴】その2
「小石を投げ入れたのは2回、水の音が聞こえたのは3回。つまり、小石の数と水の音は対応していないことがわかる。どういうことかと言えば、私の投げた小石の音ではないということだ。では、何の音か。音は確かに水面に小石などが落ちた時の音である。だとすれば、私が投げた小石以外の小石の音であろう。しかし、穴のまわりには私しかいない。誰が投げたんだ。いつ投げたんだ。これだ、いつというところがポイントだ。私より未来の人は、さすがに投げてはいないだろう。現在は私だけである。過去はどうだ。私より前に小石を投げた奴がいるんじゃないか。それなら説明がつく。そして、その音が今聞こえたのではないか。そういえば、先ほどこのあたりをウロウロしている子どもがいたじゃないか。あの子も、きっと石を投げ入れたに違いない。その音が今頃聞こえるとは、この穴は相当深いぞ。恐ろしく深い穴だ。そして、もうしばらくすれば、私の投げた小石の音が2回聞こえるはずだ。そろそろ聞こえるはずだが」
男は筒状の穴に耳を傾けた。
*** ポチャン *****
「ほうら聞こえた。もう一回聞こえるぞ」
*** ポチャン *****
「どうだ。予想どおりだ。なんとか底の方が見えないかなあ」
もう一度、男は穴を覗き込んだ。その時、遠くから声が聞こえた。
「気をつけなされー」
「何のことだ。こんな小さな穴に落ちるわけでもあるまいし」
そう思った瞬間の出来事である。
*** ポタッ *****
「そうか。そういうことだったのか」
「覗いてはいかんぞー」
男は納得して歩き始めた。
「くそっ。運が悪いな」
遠くの声は、まだ聞こえている。
「そこは、あの鳥のトイレじゃからなー。空中から糞を穴に入れる名人鳥じゃ。穴をふさがれると必ずふさいでいるものの上に糞を落とすから気をつけなされー」
見知らぬ穴には気をつけますように。




