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第11夜【穴】その1

不思議な空間はこの世にたくさん存在しています。どこへ続いているかわからない穴。興味をそそられるものです。

【穴】その1


 その穴は天を向いていた。閑静な住宅街の一角に一つだけ空き地があり、その空き地の片隅にセルロイド製の筒状の物体が刺さっているというか突き出しているというか、それは天に向かってそびえ立っていた。

「何の穴だ」

 この地を初めて訪れた者は、一様にして首をかしげる。一見して、何が目的でそこに設置されているのやら、どんな効果があるのやら、皆目見当がつかない代物なのだ。

「フタはない。ということは、雨が入る。垂直に立っているところを見るとケモノの巣でもなさそうだ」

 その穴に興味を示した何人目の男であろう。その男もまた、穴の存在目的がわからなかった。今までに何人もの人が興味を示し、その場に立ち止まり、しばし考え、あきらめて去っていった。

「のぞいてみるか」

 男はおそるおそる中をのぞいてみた。しかし、穴は相当深いところまで続いているようである。陽光は穴の深みに比例して徐々に暗くなっていき、やがて闇に包まれているのであった。

「小石を落としてみようか」

 男は小石を手に取り、そっと穴の中に落とした。が、音がしない。

「底は水ではないようだ。ということは井戸らしきものではないな。コンクリートのようなものなら乾いた音が聞こえるはずだし、ってことは、底は柔らかいコケ状のもので覆われているのか」

 男は推測した。しかし、いくら柔らかい物でも、まったく音がしないというのは不可思議だ。

「聞き逃したか。もう一度やってみよう。それ」

 今一度、小石を入れてみた。

*** ポチャン *****

「なんだ。やはり、聞き逃していたのか。底には水が溜まっているようだな」

 少し安心した。何の穴かは未だにわからないが、とにかく底があることがわかり安堵感を覚えた。

「帰るか」

 何の穴かはわからないが、このままここで考えていても結論が出ないと思い、男はこの場を立ち去ろうとした。

*** ポチャン *****

「なんだ、なんだ!」

 音は先ほど聞こえたはずである。

「どういうことだ」

 男の頭は混乱した。

「ここで、もう一度小石を落としたらどうなる?」

 男がもう一度小石を投げ入れようとしたときである。

*** ポチャン *****

「なんだって!!」

 3度めの音である。しかも、男の手には小石が残ったままである。

「俺は小石を落とした。1回目は音がしなかった。2度目を投げ入れたら水の音がした。しばらくして、もう一度水の音がした。3度目の小石は投げる前に音がした」

 男は今起こった出来事を振り返った。

「冷静に、冷静に考えれば答えが出るはずだ」

 男は、何度も何度も振り返った。

「状況から判断するには、考えられる結論は一つしかないな」

 男はある結論に達したようだ。

 

つづく 



どんな展開になりますことやら。

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